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「小夜はここで待ってろ! 」
「お、お父さんっ! 」
停めた車を荒々しい音と共にドアを閉めて、恭太は病院の中へと入った。
すぐに階段で上がる。
青山は、亡くなった篠崎のお爺さんやその妹のことにとても関して詳しかった。確かめるより前に、華子がここに入院しているといったことも教えてくれたのだ。
しかも、何階のどの部屋にいる、とまで。
一体、あの人は何者なんだろう。
……今日は朝から警察とのやり取りで大変だった。亜由美が最近挙動不審で、精神が安定していないことはよく分かっていた。だからもしや、と思ったのだが……。
ダンッと階段を駆け上がるとそのまま廊下のコーナーを曲がる。途中、看護師らしき人に不審な目で見られたが、かまってられない。
◇◇◇◇◇
┈┈┈華子は、背中越しに扉の感触を得ながら、口を開いた。
「主人は、無精子症だったんです。だから、望んでも授からなかった。誰も悪くないし、私は自分で可哀想なんて、思ったことはありません! 」
「そうなの? まあ、理由はなんにせよ結果は変わらないじゃない。私から見たら可哀想よ」
亜由美は、長い髪の毛を指にからませて言った。その姿はもはや、とても楽しげに華子を痛めつけているように見える。
「亡き主人のことを悪く言われているようで、とても心外ですのでやめていただけますか」
華子はゾワリと自分の心の中に苛立つ感情を覚えた。
自分が貶められるならまだ我慢ができる。
けれど、亜由美はもう一歩踏み込んだところに発言しているのだと気がついて欲しい。愚かなことをしている、と。
「あなたは自首するべきです! 」
華子が言った。
「するわよっ! いつまでも逃げてられないんだから! でもその前にアンタをボロボロにしてやりたかったのよ! 」
なぜ?
なぜそんなふうに思われないといけないんだろう?
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