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「なんで、そんなこと、おもうんですか? 」
華子は、息苦しさを覚える。
「……小夜も恭太もなにも私のことを分かってくれない……あなたは太陽で私はその影よ」
亜由美は唇を噛んでうつむいた。
「なにがですか? 小夜ちゃんはとても可愛らしい子ですよ。それは貴方が一生懸命育てたからでは? 」
華子はなんとか相手と自分との間になにか通ずるものを見出そうとした。自分は決して亜由美のことを疎ましいとか不倫だとかそんな邪なことはなにも思っていない。
「……ちがう。小夜は旦那に懐いてた」
「懐くって……」
その時、恭太の声がした。
「篠崎さんっ! 」
声と共に扉があけられた。
もたれる形になっていた華子は、後ろに倒れかけたのだった。それを、恭太がキャッチする。
「厚木さん! 」
華子は、助かった……と思った。
「亜由美! お前なんでここにいるっ! 」
恭太は、厳しい声を荒らげた。
「あなたのお相手にご挨拶に来ただけよ」
「この人はなにも関係がない。説明しただろっ! 」
「小夜があんなんじゃなかったら私との間が上手くいってたのっ!? 」
「なんの話をしてる! 」
「あの子が精神遅延だから私とのあいだに距離ができたんでしょ! 全部そうだよね? 」
「お母さん」
小夜の声がした。
見ると、廊下の階段を上がってきたのか、すぐそこまで息を切らせた小夜が来ていた。
「さ、小夜っ」
恭太の顔があおざめる。
「お母さん、……やっぱりわたしがいないほうがよかったんだね……? 」
「小夜! 車で待ってろと言っただろうが」
「お父さんもそう思ってるの? わたしのこと」
小夜は、泣きそうな顔をしていた。
「そんなわけないだろ」
恭太は、小夜を抱きしめた。
華子は、言葉が出てこず立ち尽くした。
こんな雰囲気、どうしろと言うのだ。
子供がそんな言葉を聞くなんて。
すると突然、華子の心に怒りの感情が湧き上がってきた。これは一体なんなんだ。
急に来て自分を貶めるセリフを吐き、ついには自分の子供にまで最悪な言葉を吐く、
この女は、なんだ?
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