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寝る瞬間。
時々、あの頃をを思い出す。
まだ、夢とか希望とか、ただ純粋に言葉にすることが出来た、何物にも縛られていなかったあの頃を。
過去というものは、どんなものでもかけがえのないものである。
例え、忘れたくてしょうがないことでも、その過去があるから今がある。
道端にある蛙の死骸のように醜く、何十億もする宝石のように美しい。
いくら望んでも戻ってこない。
絶対に消えることがないものである。
しかし、それは薄れていく。
ただ薄れていく。
彼女の優しい声、笑った表情、細く柔い手先。
脳裏に浮かぶ情景を飲み込み、胸にしまい込み、意識を落とす。
朝が来る。
誰にでも平等に来るとは限らない朝。
少し重たい瞼を開け、陽の光を浴びる。
ようやく、意識が覚醒していく。
そして、今日の「生きる《しごと》」を認識する。
彼女を忘れた世界は、今日も回り続ける。
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