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知らない関係【杉本side】
「みんなお疲れ様。この調子で次の依頼も頑張っていきましょう!乾杯!」
俺の音頭でグラスのぶつかる音が増えていく。
俺も掲げていたグラスを口元に持っていき、ビールをぐびぐびと半分まで飲み干した。
「これめっちゃ美味いっすよ!」
「ほんとだ、すごい美味しい!」
「生2つお願いします」
「篠原くんジュースなの?」
みんなそれぞれ話をしている中、うるさい店内で聞こえたその声に俺は目を向けた。
篠原の手にはオレンジジュース。
ダルそうなその顔も相まって、まるで子供のように思える。
「酒弱いんで」
あいつ来てんの珍しいな……
会話を盗み聞きしながら、ポテサラをつまみ、手元にあった自分のビールを全部飲み干す。
「課長!頼みましょうか?」
楠は俺の横顔をまっすぐ見ている。
何をとは言わなくても、グラスを置いたその動作に対しての言葉だと容易にわかった。
「楠はほんとよく見てるな。出来た部下だよ」
「いえいえ、嬉しいです!」
「生1つと……お前は?」
「私はまだ大丈夫です!」
「あいよ」
机においてあるボタンを押すと、しばらくして店員が駆けつけた。
言われた通りの注文をして、他の連中も追加で続々と声を上げていく。
少し片付けようかと机の上を見回していると、まだグラスを持ったままの篠原を見つける。
まだ店員は戻っていない。
俺は近くにあったメニュー表を机越しに篠原へ差し出した。
「お前も欲しいもんあったら頼めよ」
「……どうも」
篠原はメニュー表を受け取り、開いては何も頼まずそれを横に置いた。
何だよ、あいつ……
そういえば仕事でしか話したことがなかった。
仕事の時もいつも気だるそうで。
楽しくなさそうにしている篠原を余所に、俺はみんなの会話に入っていくのだった。
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