親の心子知らず

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親の心子知らず

 私の記憶に残っている母は常に家にいた。所謂専業主婦と言う存在である。 私が瞼の裏に思い浮かべる母の姿はリビングにちょこんと座り、黙々と内職をこなすものである。それはさながら手だけが動く絡繰人形のようであった。  私に物心がついた頃には母はもうこの姿だった。家事をしている時以外は常に内職をしているのである。もう、いつの頃だかは覚えていないが、私は母に尋ねたことがある。 「ねえ、お母さんはお外に出てお仕事をしないの?」と。 すると、母はニッコリ微笑みながら私に答えた。 「お外に出たら、誰が『おかえりなさい』って言うの? お母さんしかいないでしょ?」 私は「ふーん」と言った感じにその場を流した。ただ、母親が外に出ない理由が気になっただけで、それに対してどうこうは考えなかった。  私が小学校に上がったばかりの頃、誕生日プレゼントとしてテレビゲーム機を買ってもらった。それを友人に話すと「やりにきていい?」と遊びに来る回数が増えた。その頃のテレビゲーム機と言えば据え置き機のスタンドアロン式であるために、誰かの家にみんなで集まってプレイすることが普通であった。現在のようにオンラインで繋がって各々が家にいたままプレイできる環境を前にすると「便利な世の中になったものだ」と感嘆するしかない。  私が遊ぶ友達グループの中で一番最初にテレビゲーム機を買ってもらったのは私であるために、私の家はちょっとしたたまり場になった。その頃はテレビは一家に一台の時代、自室に一台の現在とは違う。当然、私の家にあるテレビもリビングに一台だけであった。 テレビゲームをプレイする時にはリビングに集まる形となる。  母はいつもリビングにいる。だから、友達みんなでテレビゲームをプレイする時には母のキツーイ監視がつくことになってしまう。そんな「遊び」の日々が続くうちに、他の友人も続々とテレビゲーム機を買い出した。
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