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ある日の夕食中、私は母に質問を投げかけた。
「ねえ、どうしてお母さんは外で働かないの? 他のお母さんはみんな働いてるよ」
母は驚いたように箸を止めた。そこに父が割り込む。
「うちはお父さんがお金稼いでるから、お母さんが働く必要はないんだぞ」
ここだけを聞けば「ウチはお金持ち」で終わる話である。でもこれならば母が内職をする必要性はない。私は父の言葉を無視して母に続けた。
「ねぇ、お母さん。お母さんがずっと家にいるのは、ぼくの家だけだよ。カッコ悪いよ」
その瞬間、母は悲しそうな顔をした。そして、いつもとは違う低いトーンで私に言う。それが悲しい時の声だということに私は気が付かなかった。
「そう、そんな風に思うんだ」
父は箸を思い切り叩きつけ、私を怒鳴りつけた。
「お母さんに謝りなさい!」
しかし、母は首を横に振りながら父を静止する。そして、私に対して問いかけた。
「そんなに、お母さんがお家にいるのが嫌なの?」
「うん、やだ、カッコ悪い」
「お母さん、いなくなってもいいの?」
「違う、お掃除やお洗濯やごはんの時はいていいよ。ぼくが学校行ってる間だけはお外でお仕事しててほしいの。そうしないと友達呼べないじゃん」
何と最低な自分本位な発言だろうか。今にして思えば自分で自分を顔面が変形するぐらいに殴り倒してやりたいぐらいの発言である。
あの時、横でそれを聞いていた父に殴られなかったのが不思議なぐらいだ。
「わかりました」と、母。私は「ついに外に出て仕事をするのか!」と、嬉しさを隠せずについ笑顔を見せてしまった。しかし、出た言葉はそれとは真逆のものだった。
「あなたが何を思おうとお母さんは内職をやめないし、外に出るつもりはありません。友達も連れてこなくていいです。友達と遊ぶなら、その子の家に行きなさい」
私は母のわからず屋な態度を前に怒りが爆発してしまった。テーブルを平手で思い切り叩きつけ、椅子も後ろに倒れる勢いで立ち上がった。
「もういいよ! もう家に友達連れてこない!」
私はわからず屋の母を目の前にして激昂し、そのまま部屋に駆け込んでベッドに飛び込み、一晩中泣き腫らしてしまった。
その日、私に少し早い反抗期が到来した。母との会話は相槌程度の必要最低限、とんでもないクソガキである。
母はそれにも関わらず、私が家に帰る度にこれまでと同じように笑顔で「おかえりなさい」と言ってくれるのだが、私はそれに対して何も返さない。それを聞くだけで反吐が出ると言わんばかりに唾を吐くような舌打ちを放つようになってしまった。
時代が進み、テレビも一家に一台から一部屋(自室)に一台の時代となり、私の部屋にもテレビが設置された。それに伴い、私は友人や彼女を家に呼んで部屋でテレビゲームをするようになった。そうなったにも関わらず、私の中では「あの件」が尾を引いており、反抗期は終わらなかった。
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