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桃の名は
うちには桃があります。
それはそれは大きな桃です。大きさを例えるなら東京ドームを1000分割したその2くらいでございましょうか。ある日、三度目の浮気をして原型が無くなる程度に崩れたくそじ…おじいさんが、江戸川で前の屋形船に船間距離をつめていたところを拾ってきたというのです。私は、それを見て
「汚えな。返してこい。」
と優しく申し上げたのですが、いざ捨ててこようとすると良心が痛みますので、アプリで売ろうと決意いたしました。
私、なんたる英断。
5万6千円で出品するとすぐさまソールドアウト。
送り出してほっとしたのも束の間2日で帰ってきました。
返品理由は桃鉄じゃなかったから。誰がいつ桃鉄と言ったのでしょう。買ったやつはうっかりしているにもほどがあります。ま、金だけ徴収したので悪しからず。
桃は大変大きく、部屋の面積を矢鱈と狭め、横を通るたびに小指をぶつけて非常に邪魔でございます。使い方としては換気をする時に扉のつっかえ棒にする時と、テレビを見るときの背中のソファーにするくらいしか役に立たないのです。
腹がたった私はネットで流行りの模造刀を購入。刃に『悪鬼滅菌』と書いてあるのでボタンを押すとアルコールスプレーが出てきたので便利だと思い、桃に刺して殺菌を試みます。
「うるせえ婆婆様。俺は自粛させて頂いているのですよ。年中な!」
と中から反抗的な敬語が聞こえたので、対話を開始。勿論対面式の無料通信システムを活用します。
「おい。パジャマとはどういう了見だ?」
「おい。アステカ文明の頭飾りとはどういうことですか?」
ファーストコンタクトは上手くいったようです。桃の中在住のHN『キャッサバに戻れ』は、話してみれば気のいい桃でした。近くにいてもわからないことがあるものだと感じさせる素晴らしい会見であったかと。
「会話途中になにをしてるんだHN『キャッサバに戻れ』」
「肩こりがすごいから、マッサージ動画とマッサージ小説を見て癒やされてるんだよ。くそ御婆様。」
「マッサージされにいってこいよ網走に。」
「俺、接触恐怖症だから触られたら腹筋割れる。」
なんとこのご時世に適合した桃。
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