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少年編25
おぼろげに佐藤家の事情を理解していた隆司は、それでもはじめて耳にするような様子で春子の話を聞いた。
自分のような子供が踏み込んではいけない世界のような気がしたからだ。
春子の話がひと通り終わると、親子共々口をつぐんでしまった。
まるでお通夜の帰りみたいだ。
あと数分ほどで自宅に着くころになって、ようやく春子が沈黙に耐えかねて口を開いた。
「薫ちゃんと中々会えなくなるしさみしくなるねぇ?」
「まあでもずっと会えないわけじゃないし、引っ越すとこ決まったら一緒に遊びに行こっか?」
「うん…。あんなぁ、母ちゃんボクなぁ、かおちゃんから話聞いててん。」
隆司は佐藤家の事情を知っていた事を黙っているのが悪いと思ったわけではないが、なんとなくモヤモヤする感情を心の中にしまっておくのが苦しくなり、何もかも春子に話してしまおうと、薫から聞いたほとんど全部を打ち明けた。
ただひとつ薫に対しての特別な感情だけは秘密にしておいた。
春子は隆司の話を聞いて、両親の離婚の事やこれからの事全部を一身に背負っている薫の胸の内を思って切なくなり、なぜか我が子の頭をなでながら、
「父ちゃんと母ちゃんは大丈夫やで。」
と、優しい声で隆司に言い聞かせる。
隆司はそんな母親のさみしそうな笑顔を見つめながら無言でうなづき、そっと春子の手を握る。
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