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少年編26
春子はそんな小さな手を強く握り返す。
「母ちゃん痛い。」
隆司は遠慮がちに言うが、
「何言ってんの!男の子が!」
と、笑いながらいつもの春子に戻って答える。
隆司も仕方なく苦笑いする。
自宅に着くと春子は突然思いだしたように、
「あんたぁ、薫ちゃんの引っ越し決まったらお見送り行かなあかんなぁ。」
「もう約束とかしたんじゃないの?」
とまるで薫とのやりとりを見ていたかのような調子で隆司に聞いてくる。
自らのお腹を痛めて産んだ子供の胸の内などお見通しなのか?
母親と子供は約10か月の間一心同体で、くる日もくる日も一緒に過ごして、その間に何か神秘的な繋がりでもできるのであろうか?
母親の我が子に対しての洞察力はまさに神がかっている。
昨今では親が我が子の考えている事が分からずコミュニケーションがとれなくなり、あげくに自分自身の精神が不安定になり、育児放棄や虐待などの問題が起きているが、ストレス社会の成れの果てなのか、古き良き時代の親子関係というものが薄れてきている。
またその逆も然りで、精神的に不安定な状態で成長した子供による家庭内暴力やいじめなどという問題もあるが、最近では前者の問題が特にクローズアップされている。
人間とはとても弱い生き物であるがゆえに、少しの精神的苦痛やボタンの掛け違いで、一番身近な大切な存在を傷つけてしまう。
本来は何があっても最後まで自分の味方であり、どんな窮地に追い込まれても親身になって一緒に打開策を考えてくれるのが親や家族であり、自分自身もそうするのが血の繋がりというものではないだろうか。
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