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少年編32
不安に満ちた新たな生活は、幼い薫の心と体へ予想以上の負担を与え、体調を崩しがちの日々を送っていた。
そんな事情もあってか、隆司は薫と手紙のやりとりはしていたのだが薫の方の都合がつかないみたいで、中々再会の実現ができず、手紙も滞りがちになっていた。
月日は流れ、例年にない記録的な寒波に見舞われた冬も終わり、隆司も今年から小学校にあがる初春のまだ少し肌寒いある日。
隆司が幼稚園から帰ってくると、リビングのソファーでボーッと一点を見つめている春子の姿が目に入る。
「ただいま…。」
隆司はいつもと様子の違う母親に恐る恐る声をかける。
「あっ、おかえり。」
少し間をおき、鼻声で返事が帰ってくる。
目が赤い。
泣いていたのか?
春子は鼻をすすりながら、
「隆司、ちょっとここ座り。」
隆司は言われるがままに、荷物ごとソファーに座り、春子の顔を正面から見る。
少し赤らんでいて険しい。
何かしでかして怒られるのか?
いや、いつもの叱られる時の顔とは何か違う。
「うーん…。」
と一呼吸置。いて、春子は話しはじめる
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