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少年編22
深くて複雑な事情を知らない隆司に薫は、
「ありがとう。」
「うちも隆ちゃんに逢いに行くし手紙も書くし、あといっぱいいっぱい…。」
と最後の方は机に顔伏せて泣き崩れてしまい、言葉にならない。
隆司はどんな言葉を掛けていいかわからず、薫の側に駆け寄り、きれいな黒髪を不器用な手つきで撫でて慰めるぐらいしかできなかった。
一方、1階のリビング。
こちらもに声を押し殺して泣き崩れている女性がいる。
薫の母親だ。
話のいきさつを最初から説明すると長くなるので、結論だけ言う。
どうやら旦那が3年前から浮気していたらしくて、それは現在進行形で、おまけにその女性との子供までできたらしい。
受け入れがたい事実を突きつけられた薫の母親の心境は言うまでもないが、悔しいのと情けないのとこれからどうするの?などなど、次から次へと感情が溢れ出して、心の中は入り乱れ、泣き崩れる事でしか心のバランスを保つ事ができないのだ。
親友の話を親身になって聞いていた春子は、至って冷静。
とにかく心の内をさらけ出して泣き崩れて、少し気持ちが楽になって、その後また思い出して泣いて、もう流す涙も無くなり、先の事を考える余裕ができた時、そっと手を差し伸べる。
そんな女性のこころを癒す常套手段を春子は熟知していた。
時に女性が泣くという行為によって心のバランスを調整して平静に戻しストレスを軽減する行為を、同性であり親友である春子が1番よく理解していた。
しばらく泣き崩れて泣き倒していた薫の母親は、典型的な女性の行動の模範のようにしばらくすると泣き止み、自分からこれからの事を話しはじめた。
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