ギブミーチョコレート

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ギブミーチョコレート

わざわざ激混みの2本早い電車をホームで待つ。いつもの遅刻ぎりの電車の8倍は混んでいた。格好つけの着崩しブレザーのせいで、電車が着いた途端ありえないほどの力でオレ自身も引っぱられもみくちゃの渦に投げ込まれた。オレの上着の裾は誰と絡んでやがる?!オレのカバンは自由への憧れがあったんか!? 「あれ?怜音(レオ)?今日は早いの?」 改札を駆け込みで現れた冬服の灰色セーラーの花巻千愛里(ハナマキチエリ)の美声に振り向くどころかその場に留まることさえ出来ない。滑り込んだ電車に我先にと乗り込む容赦なく仁義なく熱い闘いに否応なく巻き込まれていく。なんなんだこの電車(時間帯)!死ぬる。殺人電車だぜ。事実オレの心が今死んだわ!千愛里(アイツ)からもらうチョコを期待してホームで待ってたんだよ!去年まで3年間も笑いながら友チョコをくれてたんだ。高校が違ってんだから朝会うしかないだろ。 千愛里の高校の最寄り駅はオレの通う商業高校の二駅手前だ。身動きとれないオレを嘲笑って電車は走り三回目の殺人的おしくらまんじゅうで灰色のセーラー服の女子達は扉から吐き出された。黒髪の上から巻かれた紺白赤(トリコロール)の見慣れたマフラーの目印を追って降りようとしたオレは無残にもオレと同じ紺色ブレザーの乗車する群れに呑み込まれる。最悪だ。 「ざけんなっ、降りるのが優先だろうがっ、くそがっ」 「はぁ?てめえも商高だろが?おいっもっと奥行けよ1年、」 「さぼる気じゃね?、ってーなっ!やめろ蹴んなよ!動けよっ1年、てめえのせいで、おいっ畑野(はたの)っドア前詰めたからっ!蹴んなって!」 ピィー!と何度目かの警笛と、げらげら笑って仲間の足元を蹴る赤茶けた金髪に競り負けて奥に追いやられるオレの遙か後ろで扉は閉まる。目つきの悪い黒髪短髪の3年の先輩に静かにしてろと睨まれたオレは千愛里(チョコ)を諦めオトナシクなった。くそ先輩(偽ザイル)ども!さっさと卒業しやがれ!
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