【二千字掌編】エッセイ 『5万回斬られた男』~福本清三さんを偲ぶ~

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 2021年1月1日、コロナ禍とはいえ世間が華やかに新年を祝うその日に、俳優・福本清三さんが77歳でこの世を去った。  私が子供の頃はチャンネルを合わせると、どこかで遭遇するという頻度で、時代劇に登場した方だ。ウィキペディアで見ると彼の出演作の圧倒的な量に驚いてしまう。「5万回斬られた男」という異名にも頷ける。  悪役さえ信頼を寄せる貫禄と、演技とは思えぬ鮮やかな殺陣。そして正義感溢れる主役の見せ場として、切られながら激しくのけ反り倒れる「海老反り」で死にざまを見せるその姿は、ベテラン俳優としての美学が感じられた。  しかし、メイクを取った素顔の福本さんは穏やかで優しい。主演映画はわずか一作、それも最初のうちは彼が謙虚に断っていたそうだ。共演した大物俳優たちの追悼の言葉に、福本さんの情熱の炎がまだ灯っているような気がした。
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