【二千字掌編】エッセイ 『5万回斬られた男』~福本清三さんを偲ぶ~

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 定年を迎えても嘱託で俳優を続け、2014年には『太秦ライムライト』で人生初となる主演を務めた。  本作では役者としての素顔がみられ、彼の美学を結集したような死に涙腺が緩んだ。第18回ファンタジア国際映画祭で日本人初の主演男優賞、最年長受賞記録を更新という快挙は、恐れず夢に挑戦するエネルギーをもらった。  しかし訃報の詳細を読むと、この映画の後に肺がんが発覚。治療を続けながら、調子のいい時は仕事を続けていたそうだ。  私は何と言っていいか分からず、胸が詰まった。病魔との闘いを選んで、表現を追求し続ける勇気は、どこから湧くのだろうか。  幼い頃からテレビの中で見続けた、福本さんの死の演技があまりにも鮮やかで、ご冥福をお祈りしながら初めて、帰らぬ人という実感が湧いてきた。
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