-43.24℃ 【思いやりの国】

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-43.24℃ 【思いやりの国】

僕の一族は生まれた順番で名前が決まってる。誰が決めたのかは知らないが、代々続いている伝統らしい。 だから、僕の名前は、祖祖母の姉、祖母と母の姉と従姉妹と同じ名前だ。 僕であり、僕ではない名前。 僕は一体誰なのか、子供の頃からよくわからなかった。 わかっていたのは、僕がこの一族で『イラナイモノ』であること。 同じ名前の祖母から、家を出るように告げられた日から僕は1人で暮らし始めた。 心の底からほっとした。 本来は男の僕だとしても泣いてしまうような、喪失感や悲しみや寂しさを感じるべき場面だったんだと思うけれど、僕はただただ初めて心の底から安らいだ。 やっと、ひとりになれたんだ。 子どもの頃から家にはずっと何か得体の知れない化け物がいて、姿は見せないけれどそれは僕のことをずっと見ていて、僕を恐怖と緊張と不安に陥れた。1人で家にいると襲われるかも知れないから、いつも父が帰ってくる夜になるまでずっと森の中にいた。 男である僕は放っておかれていたから遊んでいることを咎められることはなかったし、森の中に入ることも許されていた。 学校から帰ったらすぐに森の中で本を読んだり、歌ったり、遊んだり、昼寝をしたりした。川の流れや葉の擦れる音や風が通り過ぎる音はとても優しくてほっとした。 ある程度魔法が使えるようになったときに森の中に小さな基地も作った。 いつも遊んでいる大きな木に頼んで空間をわけてもらう方法だ。何百年も経った木の中には強い力と張り巡らされた空間がいくつもある。その中にいれば何にも侵されることはない。 昔の人は敵から隠れたり、大切なものを守るために使っていたらしい。 今まで気に入って拾い集めたものに少しずつ魔法をかけていく。拙い魔法でも自分が作った家具に興奮したのを今でも覚えてる。 僕の家にはあのとき作った家具がいまでも置いてある。あの時の基地に似せて作ったこの家にあまりにも合うから。
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