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プロローグ
進めども一向に景色は変わらず、遥か頭上高くを奇妙な鳴き声を上げた鳥が飛びまわっている。霧に覆われ、まるで賽の河原のようにゴツゴツとした岩場はこの世のものとは思えない。足元はぬかるみ、新調したばかりの靴の中もしっとりと濡れ始めていた。
体温を奪われるのも時間の問題だと危ぶむが、傍らに立つ森ノ宮匡芳は一向に気にしないようでのんびりと歩を進めている。
「先生、本当に見つかるのでしょうか」
情けない声を上げたのは葛原正吾。
森ノ宮より遥かに若いはずなのにゼイゼイと息を切らし、必死の形相で彼の後を追う。
人ならざる者が住む山と忌み嫌われ、地元でも足を踏み入れる者のいない山中を彷徨ってかれこれ3時間は経過している。
「さあ、見つかると思えば見つかるし、ダメだと思ったらダメなんじゃないだろうか」
トレードマークとも言える丸いメガネの奥の柔らかな瞳は面白そうに弧を描き「それとも」と森ノ宮は続けた。
「ここまで来て、葛原くんは諦めて帰るとでも?」
ニヤリと上げられた口角に、葛原は首を振った。
「いいえ、どこまでもお供いたします」
ことの発端は、2週間前にさかのぼる。
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