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葛原と森ノ宮の付き合いはとても古い。
まだ駆け出しの編集だった葛原が初めて原稿を取りに行ったのが森ノ宮だったのだ。そのころすでに森ノ宮はどこの出版社も欲しがるほど有名な作家になっていた。そんな彼の原稿を手にする緊張でガチガチだった葛原を森ノ宮は面白そうに笑い、受け止めてくれた。
年の差は20近くあったが、何度かお邪魔するうちにお互いに気が合うこともわかった。話し込むうちに小説のネタが降ってくることもあるらしく、そうすると森ノ宮は黙ったまま部屋に閉じこもりそのままひきこもる。
何度か続くうち、彼は編集長に直談判した。
「葛原くんが担当だといいなあ」
異例だったが森ノ宮本人からの申し出に、ひよっこだった葛原は彼の担当になった。誰もが無茶だと反対したが葛原は大きく育ち、森ノ宮とたくさんの名作を作り出した。
そうこうして付き合いは何年にもわたる。
森ノ宮に指定された場所に行くと彼はすでに到着して、なにやら古いノートに真剣な視線を走らせている。
「先生、お待たせしてしまいまして」
「いや、ぼくが早く着きすぎただけだから」
一年ぶりに会う森ノ宮は以前と何も変わらず、飄々とした風貌を柔らかく崩した。
「君のその格好で行けるかなあ」
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