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「あんたね、本気? 火事になるよ?」
「ごめん、美咲ちゃん」
湯せんのためのお湯を作るため、水を入れて火にかけた鍋。環奈はそれがいつまでたっても五十度にならないと嘆いていた。それを不審に思った美咲は、冗談交じりに「火がついてないんじゃない?」と言った。
「そんなわけないじゃん」と言って、環奈が誇らしげに画面をコンロに向けると、コンロはシュー……という音を立てていた。
「あんたは私がいないと火もつけれないの?」
環奈は「へへ」っと笑うと、コンロを覗き込み火をつけなおそうとした。
「待ちなさい!」「へ?」
大惨事になるところだった。美咲は換気をするように指示を出した。
「オンラインだと匂いが伝わらないからね。あんた、お菓子作りは香りも大事だから、気をつけなさい。見るだけじゃダメよ」
もう一度お湯を温めなおすと、ようやく二人はチョコレートを溶かし始めた。
甘い香りが漂ってくる。
買ってきたチョコレートが溶けていく様子に、自分の気持ちを重ねてみる。
ゆっくりと溶けていくチョコレートは、恋心のようなものだ。
温めれば温めるだけ、ただ甘い香りを漂わせて。
気持ちを込めて混ぜれば混ぜるだけ、少しずつ形を失って。
最後には、なにかわからなくなる。
その熱くなった恋心を、確かめるように器に入れる。
そこから一歩引いて。少し距離を置いて。その気持ちを冷ましてみる。
そこで初めて気づく。甘く固まったチョコレートを前に。
自分の気持ちは、こんなにも──。
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