チョコレートライン

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「違う、それじゃないよ。もうあんたは、まったく」  バレンタインデーを明日に控えたデパートで、幼馴染の美咲と環奈はチョコレートづくりの材料を選んでいた。  美咲の厳しい声に、環奈は「ご、ごめん」と言ってそそくさと手にした袋を陳列棚へと戻した。 「あんたはもう、私がいないとなんにもできないんだから」  美咲が腰に手を当て、呆れる姿を前に、環奈は「えへへ」と笑った。 「もう、笑ってないで。ほら、行くよ!」  二人はそれぞれの家に帰り、真夜中になると、買ってきた材料を広げはじめた。これからチョコレートを作る。二人は高校一年生だ。親が起きている時間は、なにかと面倒くさい。  美咲は三脚の上に電話を置くと、腕をまくった。耳には小型のマイクが付いたワイヤレスのイヤホンを付けている。 「親の前だと、イチイチ突っ込まれることが目に見えてるからね。朝までには仕上げるよ!」 「美咲ちゃん、恥ずかしいの?」  美咲は電話の向こうで環奈がクスクス笑うのを見て「あんたも早く準備しなさい!」と一喝すると、調理道具を机に並べはじめた。 「美咲ちゃん、ごめん、ちょっとトイレ」 「はぁ? まったくあんたは。さっさと行ってきなさい」  美咲は「まったく、私がいないとなんにもできないんだから」と小言を突くと、イヤホンから聞こえてくる「ふうぅ……」という深い唸り声とトイレットペーパーをカラカラと巻く音に声をあげた。 「ちょっと、環奈! マイク切りなさい! あんた、こんなときに!」  すっきりした顔の環奈とそれを睨みつける美咲。昔から変わらない、仲良し二人のオンラインチョコづくりが始まった。
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