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023:哀しい笑顔
■■■ side-T
「颯真、ちょっといい?」
形ばかりのノックの後、返事を聞く前にドアノブを捻った。
「ちょっ、ちょっ! 待って待って!」
「へ? ……あ?」
「……あ~……」
焦った声を出した部屋の主は、ぼやく声を上げて床に這いつくばっていた。
「どしたの、大丈夫?」
「…………大丈夫。筋トレしてただけだから」
「あ、そうだったんだ。ごめんね、邪魔しちゃった?」
「邪魔っていうか……あんまり見せたくなかったんだよなぁ……」
ぼやきながら体を起こした颯真が、ぽりぽりと頬を掻く。
「見せたくないって……何を?」
キョトンと見つめた先で苦々しい顔をしている颯真は、筋トレ中だったことを裏付けるように額に汗を掻き、汗で濡れたらしいタンクトップが体にまとわりついてその逞しいラインを強調している。
この格好を見せたくなかったのだろうか──むしろ男なら見せびらかしたくなりそうな格好だけどと首を傾げていたら、
「筋トレしてるとこを見せたくなかったなって……」
「えぇ? なんで?」
「だってなんか……司には格好いいとこだけ見てて欲しいっていうか……頑張ってるとこ見られたくなかったっていうか……」
「なんで? 別にいいじゃん。むしろ筋トレちゃんとやってるの凄いなって思うけど。あの時以来ずっとなんでしょ? ホント凄いよね……オレもやろっかなぁ」
自分の貧弱な腕をムニムニと触りながら呟いていたら、なんだか嬉しそうな照れ臭そうな――ニヤけるのを堪えるみたいな複雑な顔した颯真が、じゃあさ、と咳払いの後でこっちを見つめる。
「やる? 司も一緒に」
「……ん~。そうだなぁ、ちょっとだけ。あんまキツくないやつから」
「オッケ」
じゃあねぇ、と結局は嬉しそうな顔で手招きしてくれた颯真に笑い返して、トレーニングの動画を再生していたスマホを一緒に覗き込んだ。
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