002:笑顔が見たくて

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002:笑顔が見たくて

 颯真は見かけによらず甘いものが好きだ。  朝なんかブラックコーヒーにトーストしか食べません、みたいなとんだイケメン顔なのに、実際飲むのはせいぜい甘めのカフェオレだし、もっと言うなら平日は和食派だし。  コンビニでバイトしていた期間が長かったこともあって、特にコンビニスイーツはよく食べている。 (……あれ? これ、こないだ颯真が言ってた)  颯真におつかいを頼まれて仕事帰りに寄ったコンビニで、発売してすぐにSNSでバズって完売が相次いでいるという新作スイーツが1つだけ棚に残っていた。 (あぁ、これ……)  買って帰ったら喜ぶだろうなぁ、と思っていたらついつい手が伸びて、気付けば買い物カゴに入れていた。  一緒に暮らし始めてから、こうした買い物が増えた気がする。  自分のものより相手が喜ぶものに、ついつい手が伸びてしまうのだ。しかも、すぐに反応がもらえるから、余計にこうした細々したものに(特にスイーツに)手が出てしまう。 (ダメだよなぁ……あんまり無駄遣いしちゃ……)  たかが数百円。されど数百円。塵も積もれば山になる。  足がレジの方を向いたり、スイーツコーナーを向いたりしてウロウロする。不審な動きを自覚しているけれど、こういう優柔不断はなかなか治らない悪い癖だ。  買い物かごの中の「要冷蔵」の文字が足の動きに合わせて揺れている。 (――いいや! 今日だけ! 今日買ったらしばらく買わない!)  ふすっと覚悟を決めてレジに向かう。  レジ袋を断って鞄に入れっぱなしのエコバッグを広げながら、はて自分の用事はなんだったかと首を傾げて―― 「――あっ!? 違っ」 「…………は?」 「やっ……そのっ……。すいません、食パン買いに来たんでした……」 「あー……はい。どぞ、取ってきて下さい、待ってるんで」 「すいませんっ」  赤くなっているであろう熱くなった顔をうつむけてパンコーナーへ急いだ。 「ただいまー」 「あ、お帰り、食パン買えた~?」 「買ってきたよ~」  パタパタと走って出迎えてくれた颯真に、持っていたエコバッグを手渡す。 「ありがと。ごめんね、買うの忘れちゃってさ……って! これ!!」 「……見つけるの早いね~」 「そりゃそうだよ! 全然置いてないんだよこれ! コンビニ何軒ハシゴしたか! 何、買ってきてくれたの!? てかよく見つけたね!?」 「うん。一個だけ残ってたから。……食べたいって前に言ってたな~って」 「ありがとー!!」  想像していたよりもはるかに子供っぽくて無邪気な笑顔でハグされてキスされる。 「……ここまでは予想してなかったな……」 「ん? 何?」 「んーん。なんでもない。買ってきて良かったよ」 「ホントありがとね。あとで半分こしよ」 「え? いーよ。颯真全部食べなよ」 「え~? いいの? 美味しいって評判なんだよ? あ、じゃあ一口食べなよ」 「……ん。じゃあ一口だけ。――晩ご飯の後にね」 「…………は~い」  今すぐプラスチックの蓋を開けようとした颯真に呆れながらも釘を刺す。  てへ、と言い出しそうな子供っぽい顔で笑った颯真が大事そうにスイーツを冷蔵庫に入れるのを、見届けてから笑った。 「全くもう。子供じゃないんだから」 「スイーツの前で格好つけたってしょうがないでしょ~」 「何言ってんの。晩ご飯食べらんなくなるよ」 「司じゃないんだから、このくらい五個食べたって晩ご飯入るよ」 「そういう話じゃないの! それに、オレだって最近はちゃんと食べてるし!」 「確かに。食べられるようになってきたよねぇ」 「でしょ?」 「えらいえらい」 「……ちょっと。ちっちゃい子じゃないんだから」 「まぁいいじゃない、スキンシップだって。……あ、そっか、お帰りのチュー忘れてた。さっきのはありがとうのチューだもんね」 「ふぇ!?」  ちゅっと可愛い音を立てて唇と頬にキスを贈られて、不意打ちの照れ臭さに顔が熱くなる。 「もー、可愛いなぁ」 「……うるさいなー」 「いいじゃんいいじゃん。さて、じゃあご飯にしますか」 「……ん」  無駄遣い、にはならないかも――なんて思いながら、荷物を自室に置いて食卓についた。
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