暇を持て余した神々の

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「もう大丈夫ですよ、お騒がせしてすみませんでした。」 結也が声をかけると一人の女性が社殿の裏から姿を現した、それと同時に境内にある稲荷像も生き生きとした綺麗な白色に変わり自由に動き出した。 「すみませんでした、皆さん総出で助けて貰って。」 「いいえとんでもない、無事に犯人が捕まって何よりです。」 「俺龍神様だけを呼ぶつもりだったんすけど阿水さんも呼んでしまいましたね、でも稲荷までとは。拍子木も鳴らしたかな?」 結也は胸ポケットからまた筥迫を取り出して中身を確認する。 中には先程鳴らした水琴鈴、それから火打石、土鈴、本坪鈴、そして小さくした拍子木が入っている。 それぞれ木・火・土・金・水の五行になぞらえてあり今回の有事の際にはそれぞれの五行に当てはまるもので呼び出す。 今出てきてここにいる阿水澪(あすいみお)は美都波能賣神(みずはのめのかみ)で水の神であるので龍神を呼び出した時に一緒に呼んでしまった形になる。 椎野が足を取られた小川はとても綺麗でドブのようにぬかるんでもなく、深さもそれほどない。椎野の足を掴んでいたのは阿水だったと結也も後から気づいた。 でも呼んでもない稲荷が狐火として現れたり椎野の背中を蹴ったりしたのが不思議だった、稲荷神なら拍子木で呼ばなくてはならない。 不思議がる結也を見てクスっと笑った阿水は近くの稲荷を撫でながら言った。 「双龍様が出れば境内の私たちも分かりますから、きっと皆何か手伝いたかったんだと思います。気にしないでください。」 「そうですか、夜遅いのに境内ですみません。」 「いいえ。あ、麻橋さんも来られましたよ。」 阿水が正参道の方に目をやるので結也もそちらを見る、そこでは双龍達の頭をなでているダンディな男性がいた。双龍達のもどこか嬉しそうなのが伝わってくる。 彼は大麻等能豆神(おおまとのづのかみ)で阿水と同じく馬橋稲荷神社に祀られている神だ、人間界では麻橋眺(あさはしのぞむ)と名乗っていて阿佐ヶ谷の地でアパート経営などをしている。 「麻橋さんすみませんお騒がせしてしまって。」 「そんな悪い事したんじゃないんだから。それに別天津神の貴方なんだから気使わなくて良いよ。」 社殿前に来た麻橋に頭を下げる結也を気遣い阿水も一緒に気にすることないと言っていた。 そんな中話しは直ぐに別の問題へと移っていった。 「それよりアマテラス様何かあったの?」 「え、何かありました?」 「ここ最近ずっと曇りでな、梅雨だからって事で調整も兼ねてるのかと思ったけど薄日もなくて。」 「それとここの木々達もちょっと元気ないんです、稲荷達の持って来る稲もすっかり弱ってて。明日もだったら麻橋さんに相談しようかと思ってたぐらいです。」 「そっか、そうなるとそっちはトヨウケ様。やっぱり東京大神宮におられるお二人になりますか。」 「そうですね、俺はずっと張り込みで一週間ぐらいこもってたんで知らなくて。明日には帰るので直ぐに聞いてみます。」 「助かります、台風来たりもするのでそれまでには木々達元気になったもらいたいので。」 一つ解決したらまた次の問題、深夜の神社で疲れ切ってる結也は心底勘弁してくれと苦笑いで挨拶を終えたのだった。 犯人の取り調べは他の刑事に任せたものの逮捕の状況の報告書を書いて終わった頃には朝日が昇る頃だったが、空は曇天でどんよりして重たい色をしていた。 「あー、やっと終わったのに天気悪。張り込み部屋と暗さ変わんないっすね。」 「ずっとランタンでの生活だったからな、それじゃゆっくり休めよ。」 「はい。神野さんもお疲れ様でした。」 後輩の平井と別れタクシーを捕まえた結也、いつもなら乗って来てるバイクで帰る所だがそんな気力さえもなくタクシーに身を任せる事に。 揺られて睡魔にむしばまれそうなタイミングで自宅の東京大神宮に着き、重たい身体を動かして僅かな家路を歩く。 まだ早朝にも早い時間で物音を立てずに家に入ろうとする結也の足元に何かの感触がした、見てみると飯富稲荷神社の神であるいとみが結也の足にギュッと抱きついていた。 「いとみ起こしちゃったか、ごめんな。」 足元のいとみを抱きかかえて玄関の鍵を開けようとするといとみが必死な顔をして首を横に振っている。 「どうしたんだ?」といとみを撫でながら玄関を開けた途端、ピリッと張り詰めた空気が結也に刺さる。 それは正に畏れとしか言えない重たいもので事の重大さに結也の眉間に皺が深く刻まれる。 ゆっくりと家の中に進んで行きリビングに行くと電気もつけずにソファーに座る天照大御神である神野陽司とすぐ隣にあるダイニングテーブルで座る豊受大神の神野豊がいた、お互いだんまりでピリついておりいとみは結也から離れる事はない。 「ただいま。」 「おかえり。」 「おかえりなさい、忙しかったのね。」 「うん、張り込みで。」 結也に対して受け答えはするもののそれは陽司、豊それぞれ別々にで最低限の会話と言った感じだ。 そこへ気配を感じたのだろう、寝間着姿の朝火と治気もやって来た。朝火は天之御中主神で結也の兄に辺り治気は神産巣日神で弟になる。 久々に帰って来た結也と抱えたいとみや陽司と豊の状況を見て二人とも苦い顔とわかるだろう?と顔で結也に訴えかけていた。 ピリついた空気に居たたまれない結也はいとみを抱えたまま朝火と治気の方に近寄ると二人はズイズイとリビングから少し離れて行くので結也もそれについていく。 張り詰めた空気から少しでも離れたいのは察しがついた。 「あの二人ずっとああなんだ。」 「どれぐらい?」 「もう二週間ぐらいになるんじゃないかな、社務の方は問題なくやってるけどこの天気じゃね。」 「今日馬橋稲荷神社行ったんだけど麻橋さんと阿水さんにも言われたよ。」 「大麻等能豆神と美都波能賣神か、もしかしてあの夜中の水琴鈴結也だったのか?」 「ちょっと厄介な件だったから、ちゃんと謝っておいたよ。それもあるから早いとこ仲直りしてもらわないと。」 「そんなの僕と朝火兄さん散々やったよ。」 苦労したと二人が話すがいかんせん状況が好転しない事にはどうしようもない、神々が困っていると言う事はそれだけ人々も困っていること。いとみを治気に預けて結也が二人の元へ行く。 「二人ともそろそろいいんじゃないです?このままじゃ皆困りますよ。」 「・・・。」 「・・・。」 「いくら梅雨入りしてるとはいえもう厳しいですよ。」 「他の神々からも困っていると話来てますから。」 「そろそろ仲直りしましょう。」 だんまりの二人に朝火と治気も加わって説得がされる、それでも口を開かない二人に三人で顔を見合わせてしまった。 すると豊の方がため息をついて陽司に話しかけた。 「はぁ、もういいんじゃないです?私は疲れましたよ。」 「もうか?俺はまだ二週間ぐらいいけるぞ。」 「他の神々から苦情が来るんですからもう終わりです。」 急にいつものように話す二人に三兄弟はあっけに取られていた、豊はご飯の準備を始めて陽司はテレビを付けてくつろぎだした。 外がパッと明るくなり重たい雲が晴れていき綺麗な朝陽が見えた事で三兄弟は二人の喧嘩が終わった事が分かった。 それにしても急な変わりように未だ驚いている三人、いとみもポカンとしてしまっている。 とにかく仲直り出来て良かった事に治気が明るい声で陽司に話した。 「すぐに仲直りするならもっと早くからすればいいのに。」 「仲直りって、別に喧嘩してたわけでもないぞ。」 陽司の言葉に三人はまたまたあっけに取られてた。ピリピリした空気を何日も出して口もきかずに過ごしていて喧嘩じゃないと言われても訳が分からないと言った感じだ。 見かねた豊が料理をしながらその答えを教えてくれた。 「ちょっと前に神々の遊びって芸人さんのやつ流行ったでしょ?」 「あー、暇を持て余したってやつ?」 「それを陽司さんが動画で見てやりたいって言いだしたの。」 説明しながら豊は陽司の方を指差していて、指された陽司は「これがホントの神々の遊びだ。」と満足気だった。 その後すぐに朝火からのおしかりが二人に落ちた事は言うまでもなく怒りの炎で食卓のご飯は炭に変わり果てた。 無駄な気を使い果たした結也はあくびと共に部屋に入っていった、部屋から明るい太陽の頭が見え安堵したことでより眠気が大きくなった。 そして朝火の怒号を聞きながら眠りにつくのだった。
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