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それから約一週間後暴力事件の被疑者の聞き込みでその被疑者の職場付近の赤坂にきたのでコンビの平井と分かれて聞き込みになり結也はさっそく赤坂氷川神社に向かった、最初の鳥居を潜って階段に足を掛けると上で賑やかく遊んでいるのを感じた。登り終えると大銀杏の付近で飛んだり走り回ったりしてる狛犬たちと小さい稲荷様達がいた、その真隣を人間たちは通っていくが気付くことなくそのまま通過していく。
結也の様に成人の形をしていれば人も人間として認識をするが狛犬や子供ぐらい小さい神様は人には見えない。境内にはいくつか稲荷様が祀られていて成人の稲荷様もいて神職に付いているが子供の稲荷様も数名いるのだ。家にいるいとみの事を思い出しつつに先に行くと社殿の前で掃除をしている天野掬也に声を掛けた。この天野掬也(きくや)も大己貴命(おおなむぢのみこと)と言う神だ、大国主命という方が皆には浸透しているだろう。
「掬ちゃん。」
「あれ、結くんじゃん?どうしたの?」
「ちょっと仕事で近く来たから。」
「警察のお仕事も大変だね、それに加えて家の仕事もしてるんだから。」
お互い同じような年で同じ縁結びの神であることもあって結也と掬也は昔から仲が良かった。話しをしていると太陽のある青空から不意に雨が降ってきた、いわゆるお天気雨だ。二人は雨宿りで社殿の下に入った。
「あれ?今日どこか稲荷さん婚礼?」
「あぁ、水天宮様のとこだよ。」
「大治さんとこか?それにしても豪華な行列だなー。」
「何でも本山からのお嫁入りらしいよ、しかも若い稲荷さんだって聞いてるよ。」
「本山から?そりゃ豪華なわけだ。」
嫁入りする身元を教えられて改めてきらきらと雨で光る空を見上げる結也に釣られて掬也も行列を見た、行列が過ぎると雨も上がり元の青空に戻った。
「どこも嫁入りとなると大変だね。」
「うん、あと奈美子ちゃんの嫁入りの事なんだけどさ。」
「なんとなくは聞いてるよ、親が勝手に話ししてるだけだし。それに今は奈美子も京都に行ってて家にいないから。」
「京都?なんでまた?」
「京都の八坂神社あるでしょ?そこの美御前社に行ってなんとか容姿変えてもらえないかって。なんかそういう話しあるらしくて、朝火くんとの嫁入りとは関係なしに自分を変えようといろいろ考えてたみたいで。」
掬也の妹に当たる奈美子の婚礼話からコンプレックスの話などいろいろと話し混んでいると巫女姿の掬也の奥さんの春子がやってきた。
「結也さんこんにちは。」
「どうも、春子さんすっかりこっちの生活にも慣れたみたいで良かったですね。」
「いいえーまだ全然。田舎とは違いすぎちゃって。」
一年前に長野の戸隠神社の宝光社から嫁に来た春子は天表春命(あめのうわはるのみこと)で裁縫や女性の守り神で縁結びの掬也とは神としてお似合いで人間の方でも二人並べば美男美女と絵になるそんな二人は神様の間でもおしどり夫婦の評判が高い。そんな時社務所の奥からうめき声が近づいてきた。
「あー、気持ち悪ー。」
「お義父さん!」
「また勝手にお神酒飲んだんですか。」
「おう、結也か!まーた男前になっていいな!」
「はいはい、お義父さんご飯用意しますから。」
「春子さんしじみの味噌汁にしてくれやー、あれ効くんだなー。」
朝の十一時だがかなり酔っぱらって出来上がっている天野須平(すへい)を春子が慌てて部屋に連れていく。義理の父に当たる人だがしっかりと世話をしていて春子の性格の良さがわかる、その世話されている酔っぱらいもちゃんとした神様で素戔嗚尊(すさのおのみこと)だ、破天荒な所もあるが家族への愛情は人一倍多く家族円満の神としてちゃんと力も発揮している。
「まったく昼間から困るんだけどなぁ。」
「でも俺おじさん嫌いじゃないよ面白くて好きだよ。」
「奈美子の事も責任は感じているみたいなんですけどね。」
「あぁ、戻す時のことか。」
八岐大蛇から救うために奇稲田姫命の奈美子を櫛の姿に変えて隠し、無事に八岐大蛇を倒した後奈美子を櫛から元の姿に戻す際酔っぱらって戻した為に容姿が大分変ってしまったのだ。須平自身引け目を感じていたが須平の力ではどうすることも出来ずそれだけ酒の量も増えていたのだ。その流れで結也は朝火には好きな人がいることも話しておいた。
「そっか、じゃあ朝火くん天下りするの?」
「まだそこまで考えてないんじゃないかな、とりあえず気になっているぐらいだし。」
「うちの父さんも天下りしたいって言ってるけどすんなり許可するわけにもいかないしさ、こないだ春子の実家行った時に聞いたんだけど昔天下りした神様が年取ってアクセルの踏み間違えで事故起こしたことあったんだって。それ聞いたら天下りしても気に掛けてなきゃダメなご時世なのかなって思ってさ、特にあの父さんなら尚更でさ。」
「あぁ、今そういうのも多いんだね。難しいなー。」
神様の言う天下りとは神の力を天にお返しし、人として地上で生活していく事。日本全国八百万いる神々の中では何人か天下りする神様もいたそうで、それの良し悪しは何とも決めがたい所だと結也も掬也も思っていた。
社殿の前でから話しをしながら遊び場の鳥居に向かって歩いて行く、神様事情も恋愛から介護に近いものまでと人間に近い悩みごとでいっぱいだ。鳥居の所までくると遊び場で遊んでいた狛犬や子供の稲荷様達の中からひとりが結也のところへ挨拶にきた。それは四合稲荷のあいでいとみと同じほどの年で、あいもまた可愛らしく狐の耳が生えている。
「お、あいか。また今度いとみ連れて遊びくるから遊んでやってな。じゃあ掬ちゃんもまた来るわ。」
「うん、仕事頑張って。また飲みにでも行こうよ。」
掬也とあいに手を挙げて挨拶をして鳥居を潜って本氷川坂に出た、赤坂氷川はたくさんの狛犬や幼い稲荷様がいてそこが羨ましくもあった。東京大神宮は狛犬もいないのでいとみの遊び相手が少なくてそこが少し可哀想であったからだ。
「先輩、どこに行ってたんですか?」
「氷川神社行ってちょっと挨拶してたんだよ、そっちどうだった?」
「それがドンピシャだったんですよ、神野さんのアドバイス通り職場近くのマンション重点的に当たってみたら証言何人かからもらえました。」
「やったじゃねーか。」
自分の成果が上がり喜ぶ平井を見て指示通りにちゃんと聞き込みをしてくれたことに結也はホッとした。何せ人との縁が視える以上被疑者との繋がりも大体は分かるので後はそれがどれだけ自然に捜査して出て来た様にするかに結也はいつも気を回しているのだから。
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