隣人は意外にも神様?

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そんな頃京都に出向いた奈美子は目的の八坂神社の美御前社に来ていた、社の前で中の主に声を掛ける。 「すみません、東京の赤坂氷川から来た奇稲田姫命と申します。宗像三女(むなかたさんじょ)様にお願いがあり本日参りました。お話聞いてもらえないでしょうか?」 その問いかけからしばらくすると奈美子の隣にモデルの様に綺麗な美人が声を掛けて来た。 「あんた?東京から来たのは?」 「はい、奇稲田姫命で天野奈美子と言います。あの貴方は?」 「私は八坂多美(やさかたみ)、ここの多紀理毘売命(たきりひめのみこと)。」 「そうなんですか?なんかモデルさんみたいでこんな巫女さんいるなんて凄いです。」 「私神職やってないのー、ここ結構な神様いるから祇園でバイトしてるんだけど。で?なんで来たの?」 「あの、私の容姿なんですけどなんとかなりませんか?」 「あー、やっぱりそれ。」 終始低姿勢で話す奈美子とは対照的で高飛車でズケズケ言ってくる多美だが立ち姿から何から何まで綺麗なので奈美子も言われるがままだ。 「先日縁談の話しがありまして、その話しがあった時にこれじゃダメだと思いまして。縁談はたぶん無くなると思うんですけどこれを期に何か変われたらって思いまして。」 「縁談かー、残念だったねー。どこの命様だったの?」 「高御産巣日神です、東京大神宮の神野朝火さんです。」 「造化の三神か、あそこ確か三人兄弟だもんね。」 腕組みをして何かを考えている多美を見て奈美子は高飛車だがやはり神様、何か妙案を考えてくれているのだと感謝の眼差しで待っていた。 「分かった、何とかしてみよう。」 「本当ですか?ありがとうございます。」 「ここでチャチャっと変えちゃってもいいんだけど、やっぱ内面の美しさも磨いてこそだと思うのね。それで貴方はまず鞍馬の方にある貴船神社行ってそのあと伏見稲荷大社に行ってそれから松尾大社に行った後にまたここに戻ってきてね?分かった?」 「貴船神社に伏見稲荷大社に松尾大社ですか、多くないですか?」 「何言ってんの、京都の各それぞれに行くことで京都全体の神様達の力を貰うってことなのよ?京都を十字に行くことで意味があるのよ。」 多美からの説明でハッと気付いた奈美子は「早速行ってきます。」と言って貴船神社に向かった、その奈美子とすれ違うように多美の所に来たのは次女で市杵島比売命(いちきしまひめのみこと)の八坂比美(ひみ)だ。 「誰?多美姉さんの友達?」 「まあそんなとこ、比美私しばらく家空けるからあの人帰ってきたら引き留めといて。」 「え?お客さん来てるのにどこ行くの?それに家空けるって仕事はどうすんの?」 「津美(つみ)もいるんだから大丈夫でしょう?じゃ比美よろしくねー。」 比美の制止を余所にそそくさと鞄を持って出かけた多美は本当に奈美子の事を思って提案をしたのか、それは次の日の行動ですべてが分かる。  翌日日曜日に珍しく休みで午前中に家の手伝いをして午後を自分の時間に当てていた結也は趣味のバイクを弄って楽しんでいた。最近組み立て始めたパーツを磨きながら鼻歌まじりでいると「いたー!」と女性の声が聞こえた。振り返ると美人でモデルのような人が結也目がけて走ってきた。 「いたー、結也くん探したんだよー。」 「いや、すみません誰っすか?」 「私よ、奈美子。京都の美御前社行って綺麗にしてもらったのよー、どう?綺麗になったでしょー。」 「変わったって言うか変わりすぎってか。」 京都に行って容姿の相談をするとは聞いていたがこんなすんなり別人になるものかと結也は戸惑っていた。それに容姿も変われば中身も変わるのか、お淑やかな落ち着きのある奈美子から一変してチャキチャキでなんだか騒がしい人になってまるで別人だ。それに前に視えていた天野家の縁が一切視えなくなっていたのもおかしく感じていた。 「何?誰かお客さん?」 「あ、母さんあのこの人奈美子さんらしいんだけど。」 「え?奈美子さんまた偉い変わってどうしちゃったの?」 「いえ、京都に行ってお力を借りでこうまで変われました。」 「じゃあ早速朝火に知らせなきゃねー、ちょっと待ってて。」 すんなり受け入れ喜び勇んで社務で仕事をしている朝火を呼びに行った豊とは裏腹にやはりどこか違和感を拭えない結也は警戒心が解けなかった。 「折角来てもらって悪いんだけど、兄貴縁談は断るって前も話ししたらしいんですけど。」 「そりゃ聞いてるよ、だから私も無理に朝火さんじゃなくてもいいかなって。結也くんだってまだお嫁さんもらってないんだから結也くんでもいいってことでしょ?」 「俺はまだ嫁さんとかいいですし、仕事とかあとバイクやってる方が楽しいんで。」 「そんなこと言ってないでどう?とりあえず付き合ってみるとか?」 笑顔で押されて困り果てている所に仕事を抜けてきた朝火と呼びに言った豊も一緒に帰ってきて結也は安堵した、そして朝火に奈美子の様子がおかしいと目配せして朝火に間に入ってもらおうと考えた。 「奈美子ちゃんそのお話なんだけど、こないだおじさんに断わりの話ししたんだけど聞いてなかったかな?」 「聞いてます、そうですよね。私なんか容姿が変わったって結局ダメですもんね。うー…」 引いたかと思えば急に蹲って泣き出してその場にいた三人は顔を見合わせて困ったとそれぞれ顔に書いてあった。 「そんなことないですよ、奈美子さんはいいお嬢さんですよ。」 「そうだよ、奈美子ちゃんならどこでもお嫁行けるよ。」 「ホント?良かったー。」 蹲っていた奈美子の背中を摩っていた豊を無視するように、軽く声を掛けた結也目がけて抱きついた奈美子を見て結也はもう一度朝火に目配せして朝火はスマホを出して電話を掛けに行った。 「あ、奈美子ちゃん大丈夫だからね。そんな泣かなくていいよ。」 「結也くんがそうやって言ってくれるなら、私も嬉しい。」 「あー良かった。」 離れる気配がない奈美子に結也の言葉も段々と棒読みになっていき豊もさすがに不審そうに見ていた、するとスマホ片手に朝火が帰ってきた。 「結也―、奈美子ちゃんこっち帰って来てるって。」 「え?ホントに?」 「ちょっと、どこに電話してんの?!」 「どこって奈美子ちゃん家だけど、それで奈美子ちゃん帰って来てるっていうんだけど。」 「じゃあホントに奈美子ちゃんなの?」 「私はずっと奈美子って言ってるじゃないですかー。」 朝火からの言葉に結也は驚き奈美子は最初こそ焦ってはいたが、奈美子が帰って来てると聞くと安心して元の調子に戻ったが次の言葉でまた動揺することになる。 「奈美子ちゃん今家にいるって言うんだよ、ほらテレビ電話になった。」 「あ、奈美子ちゃんだ。」 「どうも、お久しぶりです。本日京都から帰ってきました、何かあったみたいですが大丈夫ですか?」 「それなんだけどね、今ここに奈美子さんだって言う美人な人が来てて。もうどういうことなんだか。」 スマホの向こうにいる奈美子にみんなが釘付けになり特に豊は朝火からスマホを奪って話していた、その奥でコソーとそこから去ろうとしている奈美子のすかさず回り込んだ朝火はグルッと炎で囲み笑顔で「どこに行くんですか?奈美子さん。」と奈美子に問いかけた。奈美子の名を名乗っていた別人は「熱っ。」と回りの炎に文句を言ってはいるが逃げる様子はなかった。  そのまま奈美子の別人を連れて結也・朝火・陽司の三人は社務の方を豊と治気に任せて赤坂氷川に来た。待っていた奈美子に連れて来た人の正体が多岐理毘売命で八坂多美だと教えられて社務の奥で会議をすることになり神野家、天野家で多美を前に話し合いが始まった。 「なんで奈美子になんて成りすましたんですか?しかも成りすまして神野さん家に行って。」 「だってー、縁談って言ってたから上手くいけばいい男ゲット出来るんじゃないかなーって思って。話聞いた時に造化の三神ってイケメンいたなーって思い出して。」 「貴方程の美人なら別にこんな所まで来なくても貰い手あるでしょうに、しかも成りすましなんてすぐにバレるようなこと。」 「向こうじゃ妹の方が美人美人ってみんなそっち行くし、私なんか口悪いとか言われてあんまりみんな寄ってこないんだもん。」 みんなが思っていた疑問を掬也がすると多美の口調もあってかまるで女子高生が興味本位でちょっとやりましたと言い訳をしているような感じになりその場の神々は大きくため息をついていた。そんな中でも冷静でいた奈美子は多美に対して淡々と話しかけた。 「多美さんは私に言ってくださいましたよね、外見だけでなく内面も磨くようにって。それは多美さん自身が分かっているから私にそうやって言ってくれたんじゃないんですか?」 その言葉は至極正論で多美も言い返せずにうつむいてしまった。そんな多美を奈美子は責めることもなく多美の手を握って更に励ました。 「大丈夫ですよ、多美さんなら美人ですしきっとすぐにいい人に会えますよ。ちゃんと相手を思いやってあげて外見なんかに囚われないでもらえれば大丈夫ですって。」 奈美子の励ましの中社務から奈美子を呼ぶ声があり奈美子が出向き帰ってくると、多美に引けを取らないこれまた美人が二人並んで奈美子と一緒に入ってきた。 「多美姉さんこんなとこまできてご迷惑かけて。」 「赤坂氷川様、東京大神宮様の皆様方には大変なご迷惑おかけして本当に申し訳ございません。どうかお許しください。」 多美を見つけ怒る比美とその横で皆に向かって深々と謝っているのは宗像三女神の多岐津比売命(たきつひめのみこと)で三女の八坂津美(つみ)だった。 その津美を見てすぐさま比美も深々と頭を下げて、多美にも無理矢理と言わんばかりに謝罪させていた。 「いえいえ、そんな謝らないでください。大したことにもなりませんでしたし。」 「でもなんでここにお姉さんがいるってわかったんですか?」 「上賀茂神社の賀茂様にお願いして探してもらったんです。お客様来てるのに家空けるとかおかしいなと思いまして。まさか東京に来てるなんて。」 京都でも歴史のある上賀茂神社は方除けの神でもあるので探すのも簡単だっただろう、探しあてられた時の姉妹の気持ちを考えるとかなり複雑だ。 「あの時奈美子さんも多美姉さんも引きとめておけば良かったのかと思えばもう言葉もありません。」 「いいえ、京都の街を楽しめて私は楽しかったです。是非姉妹の皆さんも東京観光して行ってください。」 どこまでも寛大な奈美子の言葉に再度頭を下げて美人三姉妹は赤坂氷川神社を後にしていった。大騒動が片付き残った人たちでホッとしている中、朝火は奈美子の方に姿勢を正して話しかけた。 「奈美子ちゃんこんなことがあったから、やっぱりちゃんと言っておくべきだと思って。今回の縁談はお断りさせて頂きます。ごめんなさい。」 「朝火さん。」 「奈美子ちゃんが嫌とかではなくって私は今別の方とお付き合いしておりますので。」 「お前いつの間にそんな相手見つけてたんだ。」 「別に親父には関係ないだろ。」 朝火の告白から親子喧嘩に発展しそうになるのを周りが制して落ち着かせる。すると次に奈美子から出て来た言葉に周りは衝撃を受けた。 「いいんです、その私も気になる方がおりまして。なので全然問題ありませんから。」 「え?奈美ちゃんそんなこと話してなかったじゃない?いつなの?」 「京都に行った時にいろいろ神社を巡ってまして、その時に松尾大社の人と話しが弾みまして。また今度お会いしましょうとなったんです。」 春子と恋バナで盛り上がってる横で須平は「松尾大社かー。」と何やらつぶやいていた。 「奈美子、松尾大社の人っちゅうことはもちろん神様っちゅうことやんな?」 「はい、そうですけど。」 「分かった!今回の縁談は無しやな。陽司もそれでええやろ?」 「まあお互いいい相手いるってことだし、須平がそれでいいって言うんなら。」 あっさりと話しがまとまりみんなで再度ホッとしていると春子と奈美子がお茶を用意してくれてみんなで一息をついているときに結也は疑問に思っていた事を掬也と朝火に聞いてみた。 「それにしてもおじさんあっさり白紙にしたな、なんでだろ?」 「それきっと松尾大社の人だって聞いたからだよ。」 「なんで松尾大社の人だからいいんだよ?」 「松尾大社は酒造神、つまりお酒の神様だから何かおこぼれ貰えるとでも思ったんでしょうね、父さんらしいや。」 その返答に結也もなるほどと納得してもう一度お茶を飲んだ。何より両家とも円満に話しが纏まったことが何よりだ、そんな安堵感が広がる両家特に天野家にこの後降りかかる大事件があるとは縁が視える結也もさすがに分からなかった。
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