赤く染まる愛憎

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コンビニのおにぎり・パンなど簡単な朝食が用意され食事を取りながらの会議になった。入江や池田の簡単なプロフィールが配られ朝の聞き込みの内容の報告等が始まる。 まず最初に入江が四カ月前にストーカーの相談を笹塚の交番にしていたことが分かった、相談を受けた警官も親身になって話しを聞き見周りを増やしたりして相談から一カ月後にもう一度聞くともうストーカーの姿は無くなったと安心していたので解決と思っていてその後も入江からの相談もなかった。 問題の目撃者は夜中から早朝と言うことで目撃情報もなかったその時工事が少し先であり交通規制が掛けられたことも合わさり有力な情報は得られなかったようだ。 「二十二歳と二十六歳か、どっちも俺より若いっすね。」 「しかもあんな形で死ぬなんてな、切ないな。」 亡くなった二人の年齢を知ってよりやるせない気分になっていた結也と平井、そんな時に「他に何か情報はないか?」と捜査の指揮を執っている赤坂中央署の刑事部長の声がかかって結也は重い手を挙げてその時間に天野須平が現場付近にいたと報告した。 そして聞き込みの割り振りが行われ、入江の周辺を捜査する班・池田の周辺を捜査する班・そして須平に事情を聴きに行く班に結也と平井は当てられた。 本来なら入江や池田の捜査に行きたかったが確認しておきたい事もあったので大人しく班割にしたがって会議後赤坂氷川に行くことにした。  所轄の人の運転するパトカーに乗って赤坂氷川神社に着くとさっそく社務所に向かう一行。 「春子さん、朝早くから悪いんだけどおじさんいるかな?」 「結也さんどうしたの?お義父さんなら寝てるけど。」 「今朝日枝神社で事件あったの知ってる?それでちょっと聞きたいことあって。」 「ニュースで見ましたけど、お義父さん、疑ってるんですか?」 「目撃情報があったのでそれでお話を、須平さん呼んでもらえますか?」 結也と春子の間を割って所轄の刑事が強めの口調で催促すると春子は頷いて奥に消えていった。少し経つと春子と須平、心配して着いてきた奈美子が社務の入り口までくると、いかつく並んだ刑事を見たせいか須平は裸足のまま急に逃げ出した。 「こら!どこ行くんだ!」 「お父さん!」 「平井!任せたぞ。」 境内を脱兎のごとく走り行く須平を平井や刑事二人が追いかけて行き残ったのは結也と春子と奈美子。 「お義父さん、もうなんで。」 「お姉さん大丈夫ですから、落ち着いて。ね?」 動揺する春子を奈美子が優しく抱いて座らせて落ち着かせる、結也も同じように座って話しをした。 「そうだよ、おじさんがそんなことしてないって俺分かってるから。」 「でも逃げるなんて、今掬也さんいない時なのにこんなこと。」 「あー、出雲は掬ちゃん行ってるのか。今朝、日枝神社の大山さんに話し聞いたら夜中に須平さんがそこ通ったって聞いて。今のところ目撃者いなくて須平さん何か見てないかなってことで話し聞きたかったんだ。」 「そうだったんですか、確かに昨日はお父さんいつものお店に飲みに行くって出ていきました。」 「それ何時か分かる?あとお店の名前。」 「はい、いつも十時に家を出て二時半頃に帰ってきて昨日もそうでした。お店は居酒屋さがみってとこで、結也さんお父さんのことお願いします。迷惑ばっかのお父さんですけど事件なんて。」 「分かってるよ奈美子ちゃん、春子さんも安心して。そうだ、今日何かと大変だろうから治気に来てもらう様に言っとくわ。だから二人ともあんまり気落ちしないで。」 「本当にすみません。結也さんよろしくお願いします。」 二人を心配しつつ社務所を出てパトカーのところへ行くと須平が無理やり車内に押し込まれているところだった。 「ったく、世話焼かせやがって。」 「すみません、見つかったんですね。」 「あー、ちょっと手こずったけど路地裏で吐いてるの見つけてな。そっちはどうだった?」 「家族の話だと、十時に家を出て日枝神社近くのさがみって居酒屋に行ったらしくて帰って来たのは二時半頃だったらしいです。」 「そっか、じゃ俺達はそっち当たるか。おーい、こいつ連れて先に署に戻って話し聞いててくれ。」 所轄の刑事が中の平井ともう一人の刑事に声をかけると中の須平は結也に気付き「ワシなんもしとらん、なぁ結也頼む助けてくれ。」と声を掛けていたがそれを無視してパトカーは発進した。 その後店の店長に話しを聞いて店に来た時間や帰った時間は奈美子の言った時間とほぼ合っていて証言も信憑性が高まった。 結也が署に戻って事情聴取の事を聞くと「何も知らんし何も見とらん。」の繰り返しだというのでお願いして須平と二人にしてもらって話しをさせてもらえる事になった。 「おー、結也!やっときてくれたか、頼む!助けてくれ。」 「その前になんで逃げたの?そりゃおじさんがやってないのは俺も分かってるけど。」 「いやー、春子さんから日枝神社って聞かされててっきりまた大山のおっちゃんが怒ってるもんかと思って。」 「またって、おじさん大山さんと何あったの?ここまで来たんだからちゃんと話して。」 「そのな、行きつけのとこで飲んで帰るとき日枝神社通るんや。そんであそこ高い所にあって見晴らしええじゃろ? そんでこないだ、つい八岐大蛇倒した事思い出してこう、大立ち回りしてガラス割ってしもうて。昨日も壊してはないと思うんじゃが箒使って立ち回りしたんを言われるんかと思っての、それにあんなスーツ来た怖い人おったら逃げてもしゃーないで。」 「もうおじさん、じゃあその時に何か見たりしてない?」 「ありゃ、山王橋の方だったんじゃろ?わしゃいつも西参道の方通って帰るからホントになんも見とらんのじゃ。」 嘘を付いている様子もなく結也は内容を報告に行き、家に帰してもいいんじゃないかとかけ合ったが急に逃げ出したのがやはり悪かったらしく一旦勾留と言う事になってしまった。 参ったなとなんとか須平を家に帰せないかと確認できた疑問をどうしようかと考えていると奥から騒がしく言い争う声が廊下に響いた。 声のする部屋に行くと刑事に縋るように掴みかかっている女性が「違う違う!」と声を荒げていた。周りが総出で止めに入り結也も女性を引き離した、この女性は池田の恋人の新崎真菜で事件を知って署に来て遺体確認と事情を聞いていた所だったらしいが。 「大樹がストーカーなんてするわけない!」 「落ち着いて、お話聞きますから。こっちへ。」 数年前に痴漢行為が池田に有ったことを理由に今度はストーカーしたんじゃないかと有らぬ疑いに激昂して荒々しくまた刑事に掴み掛かろうとする新崎を結也は平井と一緒に部屋の奥に用意してあった椅子の所までなんとか連れて行きなんとか落ち着かせた。 「お茶どうぞ、落ち着きましたか?」 「すみません、もう大丈夫です。」 「あくまで可能性の一つと言うことでストーカーだと。」 「それが間違っているんです、大樹がそんなことするわけないんです。」 「でも池田さん以前痴漢で容疑がかけられてましたよね?不起訴にはなってますが。」 「確かに疑いはかけられていました、でもその痴漢なんてしてないんです。」 平井からの追及にも何の迷いもなく新崎は池田の無実を言い通した。奥でそのやり取りを見ていた結也はそのままやり取りを見守っていた、それはある程度分かっていたのもあった。 「だってその痴漢の疑いかけられた時私と一緒に買い物に行ってる最中でした、そんな時に痴漢なんて普通しません。」 「ですが警察に連れてかれて、被害者もいるじゃないですか?」 「被害者の方が別の人と勘違いしたんだと思います、大樹は気が弱い所あるから警察の人前にして従うしかないって感じでしたし。」 「でも事件前の同僚の方との飲みの席ではどこか落ち着きなく少し怪しかったと証言出てますよ。」 「それは・・・。」 「あの、お二人は高校が同じですけど、お付き合いは大分経ってからだと聞きました。何か同窓会とかきっかけがあったんですか?」 少しでも新崎が心を開いて何か新たな情報を得られないかと結也は話題を変えてみることにした。 「高校の時はクラスも違ってそんなに仲良くなかったです、成人式の時にたまたま席が隣で話しをして私がその時に事務してた病院の事話したら大樹が来た、そんな感じです。」 「じゃあ五年近くの付き合いなんですね、凄いな。」 「今日、記念日だったんです。今日で六年目になる日で、二人とも休み取って二人でゆっくりして夜はちょっと豪華に外食しようって。」 二人にとって大切な日がもう二人では過ごせないと痛感してか、新崎は涙を浮かべて必死に嗚咽を飲みこんでそのまま大樹との思い出を語った。 「大樹気が弱いっていうか意気地がないって言うか、何となくここまで付き合ったって感じで。ホントに気弱で二年前に地元で厄年の男の人が参加する喧嘩祭みたいなのあったんですけど断われずに参加してボロボロでした。」 「でも池田さんの良いところもあったからずっと付き合ってたんじゃないんですか?」 「とにかく優しくて一緒にいると凄い安心出来たんです、動物が好きでペットの猫と遊ぶのが楽しいって家で遊んでるを見ると私も楽しくて。」 新崎が池田の思い出を語っているのを結也は優しく笑顔で聞いてそのまま新崎を署の入り口まで送って行った、彼女の言葉に嘘はないとより確信が持てた。 その後行われた捜査会議では明らかになってきたそれぞれの交友関係の報告が始まった。 池田大樹は千葉県出身で中野区に住んでいて秋葉原にある清掃業者に勤めていた、恋人の新崎真菜とは同棲していて新崎は新宿で夜間保育の仕事をしている。 事件の夜、池田は同僚と新橋に飲みに行き解散したのが一時頃、新橋からどうやって赤坂に来たかはまだ捜査中で事件が起きた時新崎は仕事中だったという。こちらもまだ裏が取れてはいないがたぶん供述と同じだろう。 意外な交友関係が出たのは入江桃愛のほうだった、ネット上にバックアップデータが残っていてそこから辿っていくと彼女の苦労した人生も分かってきた。 生まれてすぐに町田市にある施設の前に捨てられていた彼女は高校までその施設よつば園で暮らしていた。専門学校を卒業後に勤めたレストランでは調理場兼ウエイターとしてマルチに仕事をしていて性格も明るく素直な良い子だと職場や友人から同様の証言が出ていた。 だが交際相手が門倉将平五十六歳で妻のある男だった為容疑は門倉にも向いた、事情を聴きに門倉の元へ行くとすんなり関係を認めて一年ほど前に入江の勤めていたレストランで入江と何気ない会話からお互い好意を持って交際に発展した、彼女も門倉が妻のいる身であることは知っていたなど詳しく話したそうだ。 事件当夜も笹塚の彼女の家に行っていて自宅に帰ったのが零時頃で妻が迎えてくれたと、数時間前まで一緒にいた彼女が殺されたことがショックだったり妻がいる身だったことで言い出せずにいた事を謝罪して妻には自分からきちんと話すからと言うことで妻への聞き込みは明日となった。 結也はどうしても自分で妻の反応が見たかったので頼みこんで聞き込みを結也と平井に回してもらった、結也の実績も考慮してまた入江と池田の繋がりを探すのに人員を回したいのであっさり許可が出た。 会議も終わり明日の聞き込みの内容を考えようと門倉の話しを聞いた刑事から様子を詳しく聞いていた時に結也は会議室の外に呼ばれた。連れてこられた入り口近くの椅子にはなんと天野掬也と神野治気がいたので結也は思わず大きな声を出した。 「掬ちゃん!だって今出雲じゃないの?」 「春子から連絡貰って、どうしようかって悩んでたら陽司さんにこっちはいいから帰りなさいって言われて。それでさっき帰ってきて治気くんと一緒に来たんだ。」 「俺は結兄の着替え届けに来ただけだけど。」 「さっき署長さんにお願いしてお父さんちゃんと見張ってるならって条件で返してくれるってなって、署長さんうちに何度か初穂納めてくれてて。」 「そうだったのか、じゃあすぐに連れてくるから待ってて。」 須平が早い段階で家に帰れることになり結也は素直にホッとした、責任感ある掬也の性格も考慮してのことだろうが。 「掬也ーすまん、だがワシは何もしとらん。」 「はいはい、それよりちゃんと結くんに謝って。迷惑ばっかかけたんだろう。」 「いや掬ちゃんそんなことないからいいって。」 「ほんまに結也はええ奴やな、ありがとう。」 「治気くんもごめんね、大学忙しいのに。じゃお父さんこれね。」 「ん?何やこれ?体動かんぞ。」 掬也がお札を一枚須平の後頭部に貼るとそれまで猫背でだらけていた須平の姿勢がシャンっと伸びそのまま固まっている。 「掬也さんそのお札何ですか?」 「これは清明さんに貰った体封じのお札、向こうで清明さんに相談したらこれくれたんだ。貼った人の言う通りにしか動かせないんだって。ね、お父さん。じゃあ本当に迷惑かけてごめんね、またお父さんに聞きたいことあったらいくらでも協力するから。」 深くお辞儀をして須平を連れていく掬也は終始笑顔を絶やしていなかったが逆にそれが怖くもあり、結也と治気は揃って須平の身を案じた。 今回の事件ではいつもの事件と同じ様に被害者や周りの人との縁は視えているのだが入江と池田の関係は全く見えなかった。 だからこそ視えている周りとの関係をしっかり確認していきたいと結也は思っていたからだ。以前も神様の力で被害者との関係が視えなくなったことがあったから神経質にもなるだろう。 縁切り神社でお参りをした直後に殺されて縁がいくつか視えなくなったり、伊邪那岐と伊邪那美の伊邪那美がキレて天逆鉾を振った大きな夫婦喧嘩がありこれが世間では伊勢湾台風と呼ばれる大きな被害を出した天災で、この時は被害のあった地域の願事や縁も吹き飛んだと陽司から聞いていたので今回も須平が絡んでいる聞いたときから何かあるかもと気には掛かっていた。 また縁だけでなく彼女の持ち物から鞄が見つかってないのも気になっていた、鞄の中身は近くの林など広範囲に撒かれていたが鞄だけが見つかっていない。 中身の財布・カードなど金目のものや身元がいろいろと分かりそうなスマホは壊されていて取られそうや処分したいものが残っていて何故か鞄だけがなくなっているのが不思議だった。 有るものがない、これが今回の事件で重要な鍵となりそうでありまた事件を複雑かつ不可解に見せていて結也はこれから先の捜査が早い段階で行き詰るだろうとどこかで感じていた。
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