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翌日世田谷にある門倉の家を結也と平井は予定通りに訪ねた、一軒家が立ち並ぶ住宅街でそこそこお金持ちの家庭が多いのだろう。
門倉は大手企業の役員なので給料も結也達より多くもらっているはずだ。高そうな電動付き自転車の隣にある呼び鈴を鳴らすと専業主婦でほとんど家にいると聞かされていた通り、インターホンから問いかけがあり警察と名乗るとすんなり中へ通された。
たぶん昨日の門倉からの話しの時点で警察がくると聞いていたに違いない。待っているリビングは広々として壁には二人で撮った写真が数枚飾られていてテレビの横には不似合いな駄菓子の箱がドンっと置いてあった。
お茶を持って来た妻の富久子に事件に夜の事を聞くと夫の門倉の証言と同じ様に零時に門倉が帰ってきてその後はお互いすぐに床に着いたと言った。
「じゃあ一時ぐらいには二人でベッドに入ったと。」
「はい、寝室は一緒ですし夫は一度寝たらそのまま朝まで起きることは滅多にないので。」
「そうですか。」
富久子から予想通りの答えが返ってきて平井はひとつ息をついていた。結也は気になっていた事をぶつけてみることにしてみた。
「あの、旦那さんが不倫なさっていたことは?」
「知ってました、何となくで最初のほうは確証なかったですけど。」
「何か決定的なことがあったんですか?」
「半年前ぐらいにたまたま見かけたんです、その日私は友達と夜飲みに出かけててお店を出た向かいのホテルに入って行く夫とあの女を見かけて。」
「それで問い詰めたりしなかったんですか、あの写真なんか凄い仲よさそうでその旦那さんからの裏切りだったとは感じなかったんですか?」
「確かに凄いショックでした、私たちずっと二人っきりでしたからつまらなくなったのかなとも思いました。いつ言おうって悩んでました、でも夫は必ず私のいるこの家に帰ってきてくれるんです。それで何も言わないでおこうって決めたんです。」
笑顔でしっかりとした口調で話す富久子は毅然とした態度で寛大な奥さんそのもので結也も平井も流石と思った。
飾られた写真はどれも二人とも笑顔で結婚式の物、旅行先やこのリビングだったり腕組みして仲睦まじい二人そのものだと感じた。
「寛大な奥様を持って旦那さんは羨ましい限りです。」
「寛大なのは夫の方です、こんな私とずっといてくれるんですから。」
「こんな私?」
「私子供が産めないんです、二十年以上前に子供を授かったんですけど死産して。それから子供が出来ない体になってしまって。そんな私に夫はずっといてくれたんです、だからちょっとぐらい余所に目移りしたって私の所に帰って来てくれればいいんです。」
「すみません、そんな大変なこと。」
辛い過去を話さしてしまったことで口からは謝罪の言葉が出てくるのも当然だろう。
「いいんです、それより刑事さん夫は何にもしてません。早く事件解決してください、ニュース見たら恋人の痴情の縺れと言ってましたけど。」
「まだ捜査中でして、すみません。もうひとつだけいいですか?あの駄菓子の箱なんかこの部屋とミスマッチな気がして。」
「あれですか、あれは夫の薬が入ってるんです。高血圧で夜寝る前に飲むように言ってるんですけどしょっちゅう忘れるんで、あれなら気になって忘れないじゃないですか。」
駄菓子の箱を取って見せてくれた中身は確かに世田谷医療センターと書かれた袋で確かに処方された薬だった、細やかな富久子の愛情がこんな所にもあるとは出来た妻だなと二人は感心しきりだった。
門倉の家を出て近所に夫婦がどんな人か聞いて回る、在宅が多いため聞き込みもスムーズに進んでいく。
どの家に聞いても仲の良いご夫婦と言う返事が返ってくるのがほとんどだった。あまり件数を増やしては門倉夫婦今後の生活にも差し支えるのでここで終りにしようとインターホンを押して玄関先まで出てきてもらい話しを聞く。
「警察の方がどうしたんです?」
「大したことじゃないんですけどここの先の門倉さんのお宅ってどんなご夫婦か聞きたくて。」
「門倉さんですか?仲いいですよね子供いないからなのか分からないですけど、なんか有ったんです?門倉さん家。」
「いえ、地域のお話聞いてるだけなので。これ防犯カメラですか?」
「それダミーなんです、いやーお向かいさんがこないだ空き巣にあったって聞いて。ダミーだけどあれば防犯にはなるかなって。さすがにお向かいさんはきちんとしたカメラ付けたって言ってたけど。」
なんとか話しを反らしてそのまま話しを終わらせた、妻の富久子の話しや近所の話しも合わさり嘘を付いている感じは受けなかった。
署に戻ると入江の遺体を引き取りたいという人物が来ているというので二人はその人物に会いに行った。遺体と対面した直後らしく少し強張った表情をしていた。
「お辛いところすみません、刑事課の神野と平井です。入江さんとはどういった知り合いで?」
「桃愛ちゃんはうちの施設で育ちました、その後もよく顔を出してくれて。」
「もしかしてよつば園の方ですか?」
「そうです、よつば園の園長をしております亀山優子と申します。」
「よく顔を出すと言ってましたけど入江さん何か変わった様子とか何か話してきたとかありませんか?」
その質問に亀山の顔が一気に険しくなり、堰を切ったように涙を流して「私が悪いんです。」とその場に崩れてしまった。平井と結也が優しく落ち着くのを待って話しを聞いた。
「何か心当たりあるんですね?」
「半年ぐらい前になるんですけど、桃愛ちゃんのことを聞きに来た男の人がいたんです。なんか怪しげだったので一切お話ししないで帰ってもらったんですけど。あの時に警察に言っておけば良かった。」
「どんな人だったとか、後は特徴とか覚えてないですか?車とか持ち物とか。」
「どんな人だったかはぼんやりで、でもあのニュースに一緒に出てた人じゃなかったです。もっと鋭い目つきだったような、車も何となくですけど覚えてます。」
「良かった助かります、いくつか車の画像出すので形近いの教えてください。」
結也は平井にも画像を出すように言ってスマホで検索した画像を端から亀山に見せていった、それで詳しい車種までは絞れないものの黒のミニバンまでに絞れた。
「よし、平井これでよつば園付近のNシステムで探してくれ。」
「え?半年前って言っても黒のミニバンって結構な量ですよ?」
「わかってるよ、これから亀山さんには似顔絵にも協力してもらうから後で似てる人物に絞りこめばいいだろ?」
「あ、はいわかりました。」
それからかすかな記憶を頼りに亀山に思い出してもらった人物の似顔絵が出来た、メガネときつそうな目元が印象強く後は自信がないと言っていたがあればそれだけ手がかりに成り得るのでとても有りがたいものだ。まだ事件性があるので入江の事を返せないと伝えると「一刻も早くお願いします。」と深く頭を下げて亀山は帰って行った。
話しの中で入江の人柄を聞くと明るくいつも元気で周りを明るくしてくれるそんな子だった、素直が故に人とぶつかることも少しはあったが芯のある良い子だったと持っていた写真を見せて教えてくれた。
それは高校の卒業式の写真で満面の笑みで亀山と並ぶ入江でとても素敵なものだった。
そ
れの何かに引っかかったような気がしたがかすかな物過ぎて分からなかったのだ。
亀山が来た日から丸二日経ったが事件は結也の予想通り膠着状態になった。事件当夜、入江はタクシーで池田は歩きで日枝神社まで来たことが聞き込みや防犯カメラの映像を探したお陰で分かったが如何せん入江と池田の接点が見つからない、小学校まで遡ったが全く接点はなく決定的な動機も見つからない。
直前まで一緒にいて疑いのある門倉も乗せたタクシーが分かっていて一応富久子の証言もあり犯行はまず無理だろう。
進まない捜査の中で目撃情報が有った須平が犯人では?と言う声も上がり始め結也はどうしようかと悩んでいた。Nシステムから割り出した画像と亀山の証言から出来た似顔絵に似た人物を合わせていく作業を平井が率先してやってくれているがそこが分かってもまだ分からないことだらけだ。
無くなった鞄もそうだがやはり入江と池田の接点、須平が何を仕出かしたんだとひたすら考えていた。
「何だろうなー。」と関係者の情報の載った資料を見比べながらそれぞれの関係を視てみる。
「入江桃愛と門倉将平は恋人、門倉将平と門倉富久子は夫婦、門倉富久子と入江桃愛はお互いの存在を知っていた。池田大樹と新崎真菜は恋人、ここまでは分かってるんだけどな。」
一人机の資料に向かってぶつぶつとしゃべっている結也は少し変な人にも見られかねないがよくある光景でもある。
捜査中に結也にしか視えない関係を整理しているのだ、傍から見れば一人事件を整理しているように見えるので問題ないが。視えてこない関係性に嫌気が差して机に突っ伏して資料をボーっと気力なく眺める、何度も見た資料をまたぺラッぺラっと繰り返し眺める。
最早やる気がないのは明白に分かる状態だ、だがそうやって集中がない時にこそ拾えるものやひらめきも案外あるもので結也は眺めていた資料に気になる点を見つけてもう一枚資料を出して並べて見比べてみた。
それから資料を再度すべて端から視ていって結也の視えているものがよりはっきりと視え、そして一つの疑問を除いて結也の頭を悩ませていたものがすべて繋がって縁となった。
「そうか、元々縁の有るところに縁が重なったのか。それでこっちは別の「えん」だったのか、もっとちゃんと見ときゃ良かった。」
「神野さん!該当する車ありました!」
「おし、じゃあ行くぞ。」
「え?どこ行くんですか?」
「その車の持ち主の所だよ、ナンバーで身元割れたんだろ?」
気後れしている平井が慌てる中、結也は遺留品を一つ持って会議室を出て平井が追いかけて来た。これから会う人物の事は分からないがその男と繋がりのある人物は結也には視えていた。
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