赤く染まる愛憎

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二人がやって来たのはビルの一室にある篠田調査事務所でこの篠田と言う男が半年前によつば園に来たと思われる男で黒のミニバンを持っている人物だ。亀山の似顔絵は全体では違う所もちらほらあるが目元は似顔絵通りでメガネに鋭い眼つきでそっくりだった。 「警察がなんの用ですか?うちは真っ当な調査会社でやらしてもらってますが。」 「半年前に町田にあるよつば園という孤児施設に行ってますよね?なんでですか?」 「半年前とはまたずいぶん前ですね、そんなの覚えてないですよ。」 「じゃあこれならどうですか?この写真の運転しているのは貴方ですよね?」 「確かに俺みたいですけど、そんなの出されたって覚えてないものは覚えてないですよ。」 Nシステムの写真を見せてものらりくらりとかわす篠田に結也はあることで聞き出せるんじゃないかと話しを振ってみた。 「調査会社なら信用第一なのも良く分かります、ですが今回殺人事件が絡んでいるのでなんとかお話ししてくれませんか?」 「だから覚えてないんですってば。」 「では思い出してください、ここのビルの所有者って龍南組ですよね?関東ではナンバー2の暴力団の。」 「そうなの?俺は知らなかったなー。」 「篠田さん、さっきも言った通り信用第一なの分かりますよね?俺たち今回は殺人の事件の事で来ているだけなのでこちらをどうこうしようって言うのはありませんから。」 結也からの少し脅し近いもの言いに篠田は小さく舌打ちをして部屋の棚に並んでいる中から一枚のファイルを出して結也の前で落として「あー、落としちゃった。誰か親切な人拾ってくれないかなー。」とわざとらしく言って自分の椅子に座った。 あくまで個人情報が載っている以上調査会社にも守秘義務がある、それを篠田が自ら提示すれば信用も何もなくなるが落としたファイルを拾った人がたまたま見てしまった分にはしょうがないだろうという篠田の考えだったんだろう。拾った結也と平井は中の調査報告書を見るとは江桃愛の素性が施設に預けられた時から現在に至るまで細かく記されており、依頼者の所には門倉富久子の名前があった。 篠田調査会社を出た二人は謎の人物の男の正体から事件関係者の繋がりが出てきて少しだが進展がありそうだ。 「でも神野さんなんであのビルが龍南組のビルって分かったんですか?」 「入り口のマークが龍南組のマークだったんだよ、普通は気付かないけどな。」 「そうなんですか、あの奥さんやっぱり不倫許してなかったんですかね?」 「かもな、平井この後門倉さん夫婦のこと調べてくれないか?交際していたころからだから二十年以上前になるけど頼むよ。」 「いいっすけど、神野さんはどこ行くんすか?」 「俺もちょっと調べたいことあってな、じゃ頼んだぞ。」 何かと神野に振り回されることの多い平井だが、神野が調べることはほとんど事件の大事な部分になっていることが今までも多くあり、平井もそんな神野を尊敬していたのでそのまま門倉夫婦のことを調べる為に一旦署に戻り結也は日枝神社に向かっていった。 数日後二回目となる門倉家の訪問を迎えてくれたのは主人である門倉将平だった、初対面の二人だったが年の割に若く見えハンサムと言う言葉が似合うそんな人だ。リビングに通されると富久子がお茶を入れている所だった。結也と平井は富久子が来るまで待っていた、全員揃って話すのがいい話しだからである。 「先日の事件の犯人が分かりました、今日はその事でお邪魔させてもらいました。」 結也が最初に言った言葉に夫婦は落ち着いた様子で結也を見ていた、そのあとの言葉を待っているようだった。 「出来れば犯人の方には自分から正直に話してもらいたいんです、すべてを隠すことなく。」 「なんかその言い方だと犯人がここにいるみたいな言い方ですね。」 「そうです、だから正直に話してもらいたいんです。」 「だから、私は犯人じゃありません。それは妻が証言してくれています。」 「その通りです、将平さんは犯人ではありません。犯人は富久子さんです、そうですね?」 結也の言った事に将平は「何を言ってるんだ。」と少し怒ったような口調で言い富久子は顔色を変えずにただ聞いているだけだった。 「きっと貴方は入江さんからあの夜呼び出されたんじゃないですか?入江さんがこっそり将平さんのスマホを見て知っていた貴方のスマホに連絡して。そこからバレるのを恐れて入江さんのスマホを徹底的に壊して通信履歴を見れなくしたんですね。」 結也の推理に反応を示すことがない富久子をそのままにして結也は推理を続けていく。 「呼び出された貴方は日枝神社に行き入江さんを殺した、そしてたまたま通り掛かって事件を見てしまった池田さんも殺した。そうじゃないんですか?」 「刑事さん、富久子がそんなことするわけないじゃないですか?第一私のアリバイを証言すると言う事は富久子の無実も証明するってことですよ?」 「将平さん、貴方あの日寝る前に薬飲みました?処方されている高血圧の薬です。」 「もちろん飲みました、富久子がわざわざ持ってきてくれて。」 「それが睡眠薬に変えられていたら、貴方は少なくとも六時間は自力で起きることは出来ません。」 「睡眠薬?そんなもんうちにはないよ。」 「奥様は数カ月前から精神科医の先生の所に通われていますよね?そちらで睡眠薬を処方されているのは確認出来ています。」 平井が言葉と共にカルテのコピーや薬の袋など机の上に出すと将平は驚いたようにコピーに目を向けていた、おそらく通院を知らなかったのだろう。そして富久子がやっと口を開いた。 「私が睡眠薬を夫に飲ませて眠らせて、家を抜けだしたと言いたいんですか?」 「そういうことです、違いますか?」 「そこまで言うからには何か証拠があるってことでいいんですか?」 「もちろん、平井あの映像見せて。」 平井がスマホを操作して門倉夫婦に見えるようにしてから流した映像には自転車で通り過ぎていく黒ずくめの人影があり平井が停止して拡大するとそれは富久子に見えた。 「この人影奥さんですよね?これはこの先の渡辺さんのお宅の家の前での防犯カメラです、他の大通りなどには映ってないのできっとこれがダミーだと思ってたんですよね?ご近所でもダミーの防犯カメラの人多いですからね。わざわざ自転車にしたのはタクシーなどで日枝神社に行ったことがバレることを恐れてですね。」 「この人影が通り過ぎたのが一時、帰って来たのが三時半。世田谷から赤坂まで女性でもお持ちの電動付き自転車でしたら一時間もあれば行けます。それからこの帰ってきた時の映像では行きで着て行った上着が有りません。血が付いたからどこかに捨ててきたんじゃないですか?」 結也と平井に徐々に証拠を出されていき、段々と表情が険しくなる夫とは対照的に最初と変わらぬ表情で聞いている富久子。 「刑事さん私言いましたよね、この人が帰ってきてくれるそれだけで十分だって。なのになんでわざわざ殺人なんて。」 「それは貴方にとって入江さんはある意味特別だからです。」 結也は胸ポケットから一枚の紙を取り出して広げた、そこには大きくDNA鑑定結果と書かれていた。 「これは門倉将平さんと入江桃愛さんのDNAによる親子鑑定の結果です、九十九%の確率で親子だと結果が出てます。」 「な、何言ってるんだ?私に子供はいない!富久子ホントだ、私はお前だけだ。」 結也からとんでもないことを言われ身に覚えのない将平は声を荒げて、すぐに妻の富久子に身の潔白を訴えた。だがその時の富久子の表情は最初と同じで涼しい様にも見えるがどこかに心が飛んでいるようにも見えた。 「その通りです、将平さんは一途な方です。奥様だけですから。」 「君、さっきから言ってることがバラバラじゃないか。一体何がしたいんだ?」 睨むように結也に視線を送る将平、そして空を見つめる富久子にこの事件の根本になった夫婦の秘密を言う時がきた。 「富久子さん、貴方二十二年前子供は死産でなく普通に元気な女の子を産んでますね。その時の子供が入江桃愛さん。だから将平さんとのDNA鑑定で親子という結果になった。」 そう、これがこの事件の大本である。 予想だにしない結也からの言葉に将平は言葉も出ずに固まっていた、すると小さく富久子が笑った。 「んふふ、やっぱりあの時に殺しておくべきだったのね。」 さらりと恐ろしいことを言った富久子は普通に世間話でもしているかのように淡々とした口調で話していた。 「富久子、お前本当なのか?」 「私だって子供出来た時は嬉しかった、報告して喜ぶあなたを見て良かったと思った。でも段々あなたは私の心配より子供の心配をするようになった。女だと分かったら尚更、名前はどうしよう、何着せよう、そうやってはしゃぐあなたを見て思ったの。赤ん坊が生まれたらあなたは私なんかどうでも良くなるって。」 「それでわざと経営に苦しんでいる宮坂産婦人科を選んでお金で偽証をすることを持ちかけたんですね、以前宮坂産婦人科にいた人から証言ももらってます。」 「本当は殺してってお願いしたんだけどそれは出来ないって言われて仕方なく施設に。」 「そして貴方は賭けに出たんですね、旦那さんと一生一緒に居るために子供が産めなくなったという嘘をついて。」 「夫はとても優しい人ですから、私が足を捻挫した時なんておんぶして病院回ってくれたほどです。だからきっと子供が産めないって言ってもこの人なら一緒に居てくれるって。」 「そんな、」 将平はすっかり気力が抜けて虚ろな表情になっていた、妻が人殺し、その殺した相手は実の娘、そして自分はその娘と男女の仲だった、そんな事実が一挙に突き付けられれば精神もおかしくなる。 「彼女とはどうして日枝神社で?」 「あの女が日枝神社って言って来たのよ、たぶん私達が結婚式したのが日枝神社だったから当てつけだったんでしょうね。」 「最初から殺すつもりで会いに行ったんですか?」 「えぇ、二度も夫の心を持って行ったんです当然ですよ。ナイフで突き刺してやろうと思ってたんだけど押したらあの女階段を転げ落ちてって、それ見たら胸がスーとして。階段の中段で傷がついた女を見てこれだって思ったの。ナイフなんかの綺麗な傷じゃなくてボロボロになるような姿があの女には似合うって。だから服脱がして下まで転がして、傷が足りないから上まで引きずりあげてもう一度上から落としてあげたの。」 話している富久子からはもう感情が伝わって来ずにただ人形が喋っているかの様に無機質で温度が無い様だった。 「池田さんまでどうして?見られたからか?」 「あの人私が女を落としたとは思ってなかったんじゃないかな、転がってる女に声掛けて揺すってたから。それ見てこの人が殺した事にしとけばいいじゃんって思ったの、上手くいってたのになー。」 「、すまない富久子、すまない。」 「なんであなたが謝るの?悪いのはあの女なんだから謝らなくていいの。ほら笑って?ね?」 ただ謝るしか出来ない夫に優しく声を掛ける妻だがその心はもう疲れきって壊れてしまっていたのだろう、無常な空間に平井も結也も心苦しさで締め付けられた。富久子を赤坂中央署の刑事が連行する中、結也は将平から一つの疑問をもらった。 「刑事さんなんで富久子と桃愛が親子だって、どうやって調べたんです?」 「お二人のお顔がなんとなく似ていたんです、それぞれ写真に写っていた同じようなアングルのものが。それでもしかしたらって思いまして。」 そうですか、と小さく返事をする将平の身になれば親子で似ているなんで本来はとても喜ばしいものであるはずなのに今回はそれのおかげで大きな秘密が明るみになりなんとも言えない気持ちであっただろう。 その後の調べで入江をストーカーしていたのは富久子でその時にあの鞄が将平からのプレゼントだと知って鞄を家に持って帰ったと分かった、夫からのプレゼントは私だけでいいと、家を調べたら大事そうにクローゼットに仕舞ってあったそうだ。
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