33 キミらしい姿で

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 季節が変化する今の時分、ロースがここにいる理由は、彼がそれを望んだからだった。  故郷に対する未練は持っていない。  望郷を覚えるほどの思い出は、彼の地には存在しなかった。  遺伝子上の両親がいるかもしれない。  ただ、それだけの場所。  腹を貸したという産みの母たる女性とも、会ったことはないのだから、拠り所となるものはなにひとつない。  ヴィンセンテは「では、我が領へ」と即決。  すかさずグラハムが手続きを開始し、翌朝一番に彼は晴れてライセム領民となったのである。  眩しい太陽光はお肌に悪い、吸血鬼のようなロースは、城内でも森に近い部屋――ようするに、陽当たりが悪いせいで住まいには適していなかった部屋を割り当てられ、そこで暮らしている。  ひんやりじめっと薄暗く「これ、いじめじゃね?」とゆかりがひそかに思ったぐらい、居心地の悪そうな部屋ではあったが、窓から緑が見える景色をロースは気に入っているのだという。  キノコが生えるかもしれないので、原木を置いてみるべきかもしれない。 「それで、なにか用事ですか?」 「主催者のおまえがいないと、始まらないだろ」 「そうですね、すみません」  ゆかりは立ち上がって、詰所近くの広場へ足を向ける。  今日はガーデンパーティーなのだ。  具体的に言うと、肉パーティーなのである。  最高級のブランド牛、豚を作って、ライセム特産品にしよう計画は、イグナティウスの協力もあって開始されている。  ベクレル・イグナティウスは、ゆかりの予想通り、この遺伝子配合に燃えに燃えているらしく、様々な品種の肉を取り寄せている。  今日はその肉の試食であり、批評の会でもある。  肉をどう品評するべきかと悩んでいたヴィンセンテに、ゆかりは即座に「焼肉」を提案した。  野菜もつけて、バーベキューだ。  アドレーの白い目が気になったが、それよりも肉のほうが大事だろう。だって、肉だ。  人の声がざわめく広場には、大勢の人が集まっている。  竜騎士団だけではなく、御三家からも来賓が招かれているのだ。一応「ライセム特産を作るための試食会」と銘打ってある以上、やむを得ない。  早速ゆかりを見出したアーロン・モルゼディアスが「落ち武者様」と喜色の声をあげた時、ゆかりと彼の動線上にすっとアドレーが割り入った。
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