先生とナターシャ

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先生の住居である25号館。一般解放されているその庭でナターシャは本を読んでいた。先生から本を貸して貰った後、本校舎に戻ろうとした途端に雨が降り出してきたのだ。 「えーっと…」 ナターシャはナチュラルレザーのトランクから辞書を取り出した。一昔前のデザインで母からのお下がりだが、いくらでも入る収納魔法がかけられた優れものだ。母も大切にしていた為、鞄は深い飴色に輝いている。彼女は横から垂れ下がった髪を机に置いた肘から伸びるまだ幼さの残る指でくるくると回し、眉間に皺を寄せつつ貸された本を読み進めていく。 「哲学において……うーん?……とは……」 「あ、これ他者って読むのか。」 そう言うとナターシャは一息つき、雨が弾ける天井を見上げた。大きくのびをすると、もう何十年前からここにあるのかわからない椅子が『ギギギッ』と、小さく鳴いた。蔓が巻きついたこのアーチ型の温室はナターシャにとって心の落ち着く唯一の場所だ。この庭は他界の英国…イングリッシュガーデンをイメージしたもので、季節を問わず、様々な花が咲き乱れている。ここ、25号館はナターシャの通うウォルターシティ魔法学校内で最も古い校舎で、約250年前から建っている。蔓と葉の隙間から先程まで自分のいた、現在も青年の居るであろう部屋を眺めた。しかし、一分もするとナターシャは目をしばたかせ、自分の作業を思い出したかのように辞書を垣間見ながら本の世界へ没頭していった。
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