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「素晴らしい。素晴らしいわ」
彼女は僕のラフを隅々まで見回して言った。
「でも一つだけ気になることがあるの」
「なんでしょうか?」
「よその家の匂いがする」
「なるほど」
僕はHMD越しに彼女の寂しそうな思いをくみ取った。どれだけ本物に近づけても、匂い一つで偽物になってしまう。
その家独特の匂いはクライアントの体臭やその時代に流行った食べ物の匂いから推測する。『おばあちゃんの家の匂い』のような既製品のプリセットを使うこともできるが、僕はプロとしてできるだけ使いたくはない。
「何か、昔よく食べていたもので思い出に残っているものはありませんか?」
「そうね。母がよくカレーを作ってくれたわ。子供用のカレールーね」
「わかりました」
僕は打ち合わせを終えると、さっそくオンライン図書館へと向かった。2000年代の子供用カレーの包装を見に行くためだ。
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