01 生き延びるための絵

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01 生き延びるための絵

1  東京都港区青山にある純喫茶、その貸し切られた一室。  相馬()()()はバニラフロートをスプーンでひと掬いして、その根元に微かな紅色を残した。それから向かいの女が脇に置いている、布の掛かった鳥籠に視線を移す。上部が半球のようなアーチを描いているので、多分鳥籠だろうと認識できているのだが、半身ほどの丈がありながら物音は立たず、いやに不気味なのである。  バニラフロートを挟んで向かいに座る女は、狩野咲妃(さき)と言った。冷房が揺らす名刺が示すところによれば、八色電工株式会社AIソリューション営業部というのが彼女の所属である。そうだとすれば鳥籠との関連性はますます分からないというものだが、もとよりひのとは非日常を求めて彼女のセールスを承諾したのである。とにかく、AIを活用したソリューションを売って回っているのには違いなかろう。  狩野は微かに緊張を帯びたような声で営業を開始した。 「それでは、自動執筆AI『コギト』をご紹介させていただきます」  ひのとはつらつらと説明を受けた。その『コギト』なるAIは、持ち主の依頼や目的に応じて文章を自動生成できるものらしい。執筆の目的さえ、独りでに作り出すことができるのだという。
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