01 生き延びるための絵

7/9
前へ
/167ページ
次へ
 ひのとはまだ事の全貌を掴めていない。分かっているのは、彼が解体されそうであるということ、1年で『S級昇格試験』に合格すればそれを回避できるということだけだ。絵を描いて余生を過ごすような猶予など、あるのだろうか。てっきり生命を賭して大学受験に臨む高校3年生のような切迫性を漠然と想起していたのだが――違うのだろうか。 「そのような認識で間違いありません。そして昇格試験の概要とは、」  コギトはひのとの部屋を見渡し、スケッチブックや絵の具箱が積み重なっている塊を見付け出した。 「良い絵を描くこと。乱暴に言えばそれがS級昇格試験の合格要件であり、生存の要件でもあるのです」  ひのとは頭を右腕にもたせ掛け、人差し指でこめかみを打った。つまり絵を描くことを趣味のレベルではなく、試験勉強のようにやってのけるということだ。先刻の喩えを修正するならば、生命を賭した『美術大学の』受験勉強が始まるようなものである。  思わずため息が漏れた。 「キミ、大変なことだよ。それは」
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加