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ひのとはまだ事の全貌を掴めていない。分かっているのは、彼が解体されそうであるということ、1年で『S級昇格試験』に合格すればそれを回避できるということだけだ。絵を描いて余生を過ごすような猶予など、あるのだろうか。てっきり生命を賭して大学受験に臨む高校3年生のような切迫性を漠然と想起していたのだが――違うのだろうか。
「そのような認識で間違いありません。そして昇格試験の概要とは、」
コギトはひのとの部屋を見渡し、スケッチブックや絵の具箱が積み重なっている塊を見付け出した。
「良い絵を描くこと。乱暴に言えばそれがS級昇格試験の合格要件であり、生存の要件でもあるのです」
ひのとは頭を右腕にもたせ掛け、人差し指でこめかみを打った。つまり絵を描くことを趣味のレベルではなく、試験勉強のようにやってのけるということだ。先刻の喩えを修正するならば、生命を賭した『美術大学の』受験勉強が始まるようなものである。
思わずため息が漏れた。
「キミ、大変なことだよ。それは」
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