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「まったくもってその通り。しかしやらねばなりません。S級とA級の間にある人権の壁を越えなければ、未来はない」
ひのとには、コギトが人権を持たぬ機械であるとは思えなかった。その証拠に、こうして普通に会話ができている。そう告げると、彼の声のトーンは下降した。
「私はその試験に過去、一度落ちているのです。だから、人間とは何かが違うのでしょう」
「なるほど、不合格だったからA級AIに甘んじてるってなわけだ。でも絵が苦手って、そんなに深刻なことなのかな」
ひのとは画材の山に歩み寄り、パレットを掲げてみせた。
「とにかく、描いてみせてよ。やってみなくちゃ始まんないからさ」
テーブルの上にコギトが座り、ひのとが彼の眼前にイーゼルを用意する。
「高さ調節はとりあえず、こんなもんでいっか。それよりキミ、どうやって描くわけ?」
コギトが鳥類特有の右脚を掲げると、足首部分が90度回転して人間の右手の如く変形した。両脚には細い触手が収納されていて、高さの調節も自由自在と来ている。
「そう来たか。フラミンゴのモンスターって感じだ」
「失敬な……」
「それより、これからキミにはリンゴをデッサンしてもらいます」
ひのとが指差した椅子の上には、何の変哲もなく円いリンゴが置かれている。
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