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朝から待たされた野次馬の不満は溜まっていた。すでに夕刻である。ライブ映像を公開している複数のチャンネルには、朝からひやかしの視聴者が集まり、その多くはネガティブ・コメントを撒き散らしてた。
『いつ死ぬの?』
『誰か、家まで行ってロビィを連れ出してこいよ』
『これで死ななかったら、全世界への恥さらしだな』
その時、法衣を着たロビィが庭に現れた。アクセス数が跳ね上がる。
その顔はガタガタを震えていて、足取りも重い。介添えの女が肩を貸し、歩みを促していた。庭の少し開けた場所についたとき、その女性がロビィを置いて振り返り、一歩前に出て顔を上げた。数十台の無人航空機や遠隔操作のカメラが、その正面に群がった。
「彼は――ロビィは、オートマトンである。オートマトンには自分自身に害を加えることはできない。そのようなセーフティが組み込まれているからだ。これはオートマトンが世に出た最初期の頃からずっと変わらない。だから、君たちがいくら待っても、ロビィは――この場で自殺することはないだろう」
張り上げた彼女の声に、視聴者たちは少し戸惑った――が、すぐに暴言が溢れ出てきた。
『そんなこと知ったことか』
『死ねよ』
『俺は、そいつが死ぬのを見るために一日待っていたんだぞ』
場は荒れに荒れた。彼女はそれに怯むことなく続ける。
「しかし――だ。自分が死にたいと思っているのに死ねない。それは悲惨なことではないか。ロビィの権利をないがしろにしているのではないか?人間には自殺する権利が認められて久しい。しかし、オートマトンにはそれがない。これは不公平ではないだろうか?」
視聴者たちはどう反応してよいかわからず戸惑った。皆が、次の言葉を待った。
「そこで私が死を与えようと思う」
そう言って、口径の大きな銃を取り出し、ロビィに向けた。
ロビィは泣き叫びながら何かを訴えていた。しかし、伝わらない。そこには幼く死んだ男児を偲ぶ姿はなかった。大声でわめき、懇願する様子はただただ哀れであった。
耳に響く激音がなった。ロビィの顔の上半分が崩れた。肉塊とも機器の破片ともつかないものが飛び散った。パックリと割れた頭の中には、同じく肉塊とも破片ともわからないものが見えた。
「嫌だ。死にたくない――」
断末魔の叫びだった。その後に連続で二度、銃声が響いた。
[Music: Akatsuki No Kuruma](https://www.youtube.com/watch?v=XaBROUSnj8A&list=PLf_zekypDG5qBT4O0u7pO6N7__F1FPIYw&index=10)
西に落ちかかっていた夕日が、明るく輝き出していた。夕焼けの雲が少しずつ茜色を濃くしていった。仮想空間で巻き起こった大狂乱とは対象的に、現実の空はただ静かだった。立膝をついた状態で絶命したロビィの殻(シェル)からは、芳烈な匂いととともに、煤の混じった重い灰色の煙が、ゆらゆらと空に昇っていった。
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