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「じゃ、暗いから気をつけて帰ってな。和田先輩によろしく」
ダッフルコートを着た鈴子を玄関先で見送ろうとすると、鈴子はポニーテールを揺らしてくるりと振り返った。
ハンドバッグから、赤い包装紙の包みを取り出す。
「忘れるとこでした。これ」
「え……」
どう見てもチョコだった。まさかハンカチとか商品券ではないだろう。
「ノーマークだったんでしょうけど、あたし治史さんのこと好きなんですよ」
あっさり告げられて、目の前がちかちかする。脳内がバグる。
「え? え? だっておまえ、和田先輩と付き合ってるんじゃ……」
「とっくに別れてますよ。じゃなきゃバイトとは言え男性の部屋にひとりで来ないですよ」
「え……」
ブーツを履いた鈴子は軽く背伸びして、戸惑う治史に唇を重ねた。
ばたん。
ドアが閉まり、治史はチョコの香りの中に取り残された。
さっきまで食べていたチョコの残りと、今持っている包みと、どちらから香っているのか治史にはわからなかった。
<おわり>
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