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「ちょ、ちょっと!?」
思わず大声が出た。
画面の中で恋人がわずかにびくりとするのがわかった。
「え、え」
「今のなに!? そこに誰かいるの!?」
「あ、いや……」
治史の目が泳ぐ。おどおどしながら、ちらりと左側に視線をやっているのを忍はたしかに見た。
「誰!? 女の人に見えたけど?」
「いやー……」
「とぼけないで! 今グラスに注ぎ足したの見えたんだから! 赤いマニキュア塗った女の人なんでしょっ」
画面に唾を飛ばして叫ぶと、治史は観念した顔になった。
ひとつ溜息をついて、言った。
「……ごめん」
治史はグラスを口に運び、喉を整えて語り始めた。
「ほんとにごめん、忍。……実はちょっと前から俺、好きな人がいるんだ」
恋人の声は、震えていた。
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