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「え、ちょっと、雷太……」
「今日が俺たちの正式な記念日になるってことでしょ?」
「……うん」
「俺は大事にするから」
冬の夜のにおいを連れてきた恋人と、花束を挟んでかたく抱き合う。
治史と別れても出なかった涙が、まぶたの裏に押し寄せる。
ああ、向こうも裏切ってくれてよかった。
雷太とふたり、シーツの上に複雑な皺を作りながら、忍は思う。
そもそも遠距離恋愛なんて、自分には向いていなかった。
あたしはまだ若く、可能性に満ちている。好意を寄せてくれる相手は雷太だけじゃない。
それに──ださいんだよ、治史は。
いつまでもぼさぼさの眉に、垢抜けない服。
あんな流行らない色のネイルの女と、お似合いだわ。
「ところで、俺にはチョコってないの?」
「ないわけないでしょ」
ほてった体をシーツでくるみ、忍は雷太のためのチョコの箱を取りにゆく。
ビター、ミルク、ホワイト、キャラメル、抹茶、ストロベリー、マロン、プラリネ。
8種類16個入りのチョコが、食器棚の引き出しでカカオの香りを放っている。
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