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「もういいよ、ありがとう」
タブレット端末の電源を落としながら治史が言うと、鈴子はふっと笑った。
「よかったですね、あっさり納得してもらえて」
「うん、なんかちょっと拍子抜け」
「治史さん、ちょっとどもってたけど、それが逆にリアリティが出てよかったのかも」
「意外と演技派なのかな、俺」
鈴子は治史の近所に住むサークルの後輩だ。付き合っているわけでもなんでもない。
第三者でも現れないかぎり忍は別れに納得しないだろうし、言葉だけで心変わりを告げるより、多少のショックを与えた方が現実と向き合いやすいだろう。
そんな見立てから、今日はバイト料を払ってわざわざ来てもらったのだ。
一世一代の演技は功を奏し、無事に忍との関係を終わらせることができた。
忍、ほんとケバくなってたな。
恋人として見た忍の最後の顔を、治史はうっすらと反芻する。
わかりやすい都会かぶれで、見てて痛々しいんだよな。染めた髪も全然似合ってなかったし。
純朴なあいつが好きだったのにな。
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