Mechanical paradox【Alice】SF

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成功だ。 技師たちは手を取り合い、喜ぶ。担当者である彼は、同僚たちの歓声を聞きながら制御室を出て、ガラスの部屋の中、起動装置に立ち尽くしたままの『彼女』に近づいた。 文字通り、無垢の瞳が。今まで何ひとつ映してこなかったレンズが、初めて対象を、担当者(かれ)の姿にピントを合わせる――焦点を、結ぶ。 「はじめまして、アリス」 彼女(アリス)のレンズが、彼を認識すべく確認のために作動する。 髪:黒 目:黒 アジア系人種/male 識別プレート:FM5439856 所属:D-ex-machina計画Alice担当技師 『Dr.Tokitumi』 合成された少女の声で名を呼び当てられ、担当者――時津見博士は破顔した。特定人物認証は成功している! 「良く言えました、アリス。これからよろしく」 ――彼の声。表情。これはAliceが記録する最初のデータである。 時津見博士に手を引かれ、いとけない子どものようにぎこちなく歩みながら、機械はそう『考え』た。起動装置からガラスの外へ連れ出される。大勢の技師たちが彼らを囲み、質問やこれからの展望を口々に語る。 それに答える時津見博士の声をAliceは聞く。会話は会話としてすべてを録音し続けてているが、Aliceの認識では、何故か博士の声だけが浮き上がるように顕在化している。 ――特定人物認証プログラムは正常に作動しています。 続いて、アリスは時津見博士を賞賛する発言を記録する。時津見博士の体温が少し上昇したのを感じる。このタイプのバイタル変化はプラスの感情である、とあらかじめ組み込まれていたデータベースが機械に教える。 ――AliceはDr.Tokitumiのために造られた。観測者の期待に沿う作動によって、Dr.Tokitumiの評価を上げることがAliceの役目である。 アリスはそのように結論を出した。 ――AliceはDr.Tokitumiのために造られた。Aliceのすべての動作と思考はすべてDr.Tokitumiに帰着する。 反芻するのはプログラム。緻密な演算によって織りなされ、あたかも人間がそうするように『思考』する、ただの電気信号。 しかし、それがAliceのすべて。
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