1人が本棚に入れています
本棚に追加
思えば、階段を下りている時から、彼は彼女を顧みなかった。
おいてきぼりをくらった、としか見えないカノジョの方はどんな顔で見送ったのだろう――
と、運転席から振り返り、左後方のクラブハウスを眺めた瞬間。
「出せ!!」
「出して!!」
僕がエンジンをかけるのと、二人が叫ぶのが同時だった。
少し離れていた筈の女は車の真横に立ち、
車内の僕らを見下ろしていた。
黒い髪をひっつめて、あらわになっている白いつるりとした小さな顔。
目は見開かれていた。
口元だけが大きく笑っていた。
思い切り歯を食いしばった状態で限界まで四角く口を開け。
その口角をぎゅっと上げて、それは笑顔を模した悪意に見えた。
ロータリーを一周して切り返し、校門の外に出る為に再び女の前を通る。
なるべく女を見ない様にしていたが、女は先ほどと同じ位置でこちらを見ているのがわかった。
Yによると、直立不動のまま、やはりあの笑顔だったと言う。
市街地に出るまで、誰も口を開かなかった。
適当なところで車を停めて寝るつもりだったが、一刻も早く祭りの開催地――神社のそばへ行きたいと二人が言うのでそうした。僕も同じ気持ちだった。
怪異に出会う→お祓いを受ける。
そんなのは神道に霊の概念が無いのに無意味だ。
そう思っていた。
でも本当にこわかったのだ。
僕らは女に何もされていない。ただ「見た」だけ。
それでも嫌な気持ちがこびりついて離れない。
僕は神主で、いつも祓う側だ。この度のことは祓うようなものでも祓ったからなにがどうとか、そういうものではないと言うことは理解している。
でも、思った。まさに触穢とはこの事かと。
最初のコメントを投稿しよう!