【深夜・母校・訪問】実話怪談

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思えば、階段を下りている時から、彼は彼女を顧みなかった。 おいてきぼりをくらった、としか見えないカノジョの方はどんな顔で見送ったのだろう―― と、運転席から振り返り、左後方のクラブハウスを眺めた瞬間。 「出せ!!」 「出して!!」 僕がエンジンをかけるのと、二人が叫ぶのが同時だった。 少し離れていた筈の女は車の真横に立ち、 車内の僕らを見下ろしていた。 黒い髪をひっつめて、あらわになっている白いつるりとした小さな顔。 目は見開かれていた。 口元だけが大きく笑っていた。 思い切り歯を食いしばった状態で限界まで四角く口を開け。 その口角をぎゅっと上げて、それは笑顔を模した悪意に見えた。 ロータリーを一周して切り返し、校門の外に出る為に再び女の前を通る。 なるべく女を見ない様にしていたが、女は先ほどと同じ位置でこちらを見ているのがわかった。 Yによると、直立不動のまま、やはりあの笑顔だったと言う。 市街地に出るまで、誰も口を開かなかった。 適当なところで車を停めて寝るつもりだったが、一刻も早く祭りの開催地――神社のそばへ行きたいと二人が言うのでそうした。僕も同じ気持ちだった。 怪異に出会う→お祓いを受ける。 そんなのは神道に霊の概念が無いのに無意味だ。 そう思っていた。 でも本当にこわかったのだ。 僕らは女に何もされていない。ただ「見た」だけ。 それでも嫌な気持ちがこびりついて離れない。 僕は神主で、いつも祓う側だ。この度のことは祓うようなものでも祓ったからなにがどうとか、そういうものではないと言うことは理解している。 でも、思った。まさに触穢とはこの事かと。
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