【迷宮の中で牛に遭う】ファンタジー

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――閉じ込められて悔しくはないのか、って? 「うーん。これが当たり前の環境で育ってますからね。悔しくも、怖くもないけれど、不便と言えばそうかな。夜に本読もうとしても灯が無いし」 ――読書なんてするの、って? 「しますよ、こう見えて(笑)送り込まれてくる人たちがたまに、持ってたのをくれるんですよ。ボクの生活がいくぶんか文明的になったのは、間違いなく彼らのおかげです」  そう語るミノさんの瞳は仲間への信頼感で輝いていた。  テセウスが聞き取ったところによると、牛の頭に生まれてしまったミノであるが、幼少期は王宮の深部で、秘されつつも穏やかに暮らしていたという。しかし成長するにつれて暴れるようになると”やはり化け物であった”と判断され、迷宮に放り込まれたらしい。 「……暴れたっていうか、誰にでもある思春期とか反抗期ってヤツだったと思うんだけどね」    大人になりきらないうちに、問答無用で世間と隔絶された。そんな孤独な王子を救ったのは皮肉にも、次々に送り込まれてきた生贄たちだった。  久しぶりの話し相手、しかも同じ年頃の若者同士。生贄候補たちは、初見では牛の頭という異形に慄きはするものの、彼らの来訪を喜び歓迎するミノの屈託のなさに、次第にほだされたようだった。 「大体さ、人が入ってきて、いきなりそれが食べ物だとは思わないよね普通。それにボクの半分は牛なんだよ? 食べ物を差し入れるならお野菜中心で、使い切れる量を定期的にって思わない!?」
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