【迷宮の中で牛に遭う】ファンタジー

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「ボクがここに居ないと安心できない人がたくさんいるからね。テッシーが国に帰ったら、次に生贄になる子には、新しい本を持ってきてくれるように伝えて欲しいな」 ※  寝入ってしまったテセウスにそっと毛布を掛けると、ミノは部屋を出た。薄暮の這い寄る通路の石畳を、糸巻から伸びた糸を遡るようにして歩く。  ――そろそろ新しい布を織りたかったから。この糸はありがたいな。 ミノは半分牛だけど、半分は人間である。雑食性動物の栄養バランスについて独りごちる。  ――主食は野菜がいいとしても、たまにはお肉も食べなきゃね。 立ち止まり、腰帯に佩いている短剣を抜いた。使い込んで研ぎを重ねた刀身は細り、そろそろ表の鋼が欠け始めている。  ――これもそろそろ限界かな。良い頃合いに剣が手に入ったなあ。 テセウスが握っていた剣は作業や調理に役立ちそうだ。――かがんで、糸を摘まみ上げる――西の部屋のきのこは今日あたり食べごろだよね。――刃こぼれした短剣を糸に押し当てる。出口と繋がるその糸に。――薬味のハーブは何が合うかな。  今夜のおかずの算段を始めながら、牛は無造作に糸を切った。
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