【ドライブインで予約がどうのと】実話怪談

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つまり、定期的に利用されていたり清掃されていたりした気配はまるでない。 電気が消えているので道路からは意識しなかったが、片隅にそこそこの大きさの店舗があった。 中途半端に民芸風のチープな外装。 焼き杉の板に白ペンキで書いた「山菜そば」「田楽」などの田舎定番メニューが傾いて貼り付いている。 そもそもはこの店のための駐車場だったのだろう。 わかり易く崩落しているわけでもないのに、見てそれとなく、もう営業していない空気が伝わってくる。入口におかれた車止めのトラ柵――カーテンも引かれてないのに、窓の外から中が窺い知れない暗さ。そんな感じから。 ――まあ、どうでもよかった。 用を足せて、しばし休憩できる場所が欲しかっただけだ。 かすれた白線を無視して、適当な場所に車を入れると、サイドブレーキを引いて深く息をついた。 手洗いに行く前に、煙草を咥え、火をつけながら大した意味も無くナビをいじって現在地を見る。 (実家←→下宿間とはいえ、通ったことの無い道は未開の地と同じだ) 高速使わないとこの峠って結構時間食うな、なんて思いながら煙を吸い込んだその時。 (コツコツ) ナビに集中する俺の反対側、つまり運転席側の窓を叩く音がした。 不意打ちの音に流石にビクつく。 反射的に視線を向けるとそこには―― 「……ッ!!」 窓にべったり貼りつくような近さに、女がいた。 (コツコツ) 俺が見ていても様子を改めることもなく、尚も軽く窓ガラスを叩く。 (コツコツ) 40~50くらい。染めていない黒いワンレンのセミロングが痛んでる、普通のおばさん。
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