【ドライブインで予約がどうのと】実話怪談

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不運にも、窓は開いて―― 女の口が文楽人形のように動く。無表情なままで。 「八月……にちで、予約お願いしま」 最後まで聞く気はなかった。 手も洗わず、トイレから飛び出す。 間近に止めた車に乗り込んで、震える手でキーをひねる間、トタンの目隠し塀の向こうの更に向こうの窓からまだ女が無表情のままで、じっとこちらを見ているのを感じた。 そこから先は、次から次へと現れるガードレールだけを意識して、必至で峠道を疾駆した記憶しかない。 落ち着いたころにネットの上空写真から、そのドライブインを探してみた。 鬱蒼と茂る木々とくねる細い道の中、ドライブインは確かにあった。 地図表示では表示されないのに、上空写真ではあの駐車場が確かにあった。 ただ、トイレの建物の奥はすぐに崖だった。 次の帰省予定の八月は、必ず高速道路を使うだろう。 この先もずっと。
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