あなたの声が聞きたくて……

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「そんな偶然あるんだね〜」 「今まで気付かなかったの?」 みんなが口々に尋ねる。 そんなの気付くわけないし、考えたこともない。 「だって、歌声はあんなにハイトーンなのに、地声は地を這うような低音じゃないですか? 普通、同一人物だとは思いませんよ」 一体、どれだけ音域が広いのよ! 「好きな歌がみんな高音なんだから、仕方ないだろ。でも、俺は、三島さんの声、St.さんに似てるなとは思ってたよ」 店長はサラリと言って、隣で笑みを浮かべる。 「えっ、うそ!?」 驚いた私は、そのまま隣を見上げる。 けれど、話題はそのまま違う方へ流れていき、それ以上は聞けなかった。 会場の予約は6時までだったので、みんなでそこを後にして、夕食を食べに店を移動する。 お酒を飲みながら、みんなで尽きない話をして、10時に解散になった。 「三島さん、送るよ」 店長は当然のようにそう言って、私の横に並んだ。 まぁ、帰る方面は同じだし。 私たちは、ほろ酔い気分のまま、同じ電車に乗り込んだ。 「今日は来てよかった」 比較的空いてる車内で、入り口付近に立つ私を、店長はまるで囲うように立つ。 混んでる車内でこうされるなら、守ってくれてるのかなとも思うんだけど、空いてる車内でされると、無駄に距離が近くてドキドキする。 「はい。楽しかったですね」 私は、一生懸命、平静を装って答える。 「ああ、それもだけど、三島さんに会えた」 えっ? どういうこと? 私とはいつも会ってるでしょ? 酔ってるせいか、言ってる意味がよく分からなくて、私は、キョトンと店長を見上げる。 けれど、真っ直ぐに見下ろす店長の視線に、恥ずかしくなって、すぐにうつむいてしまった。 どうしよう。 近すぎてドキドキする。 逃げだしたいけど、店長の腕は、私を囲うようにドアに手を突いているから、逃げ場がない。 「ずっと気になってたんだ。会ったこともないSt.さんと、毎日会ってる三島さん、俺はどっちが好きなんだろうって」 えっ? 「どっちも選べなくて、ずっと困ってた」 それって…… 「だから、それを確かめたくて、今日来たんだ。St.さんが来るってゆめちゃんが言ってたから」 今、なんか、さらっとすごいこと言われなかった? 酔ってても分かるくらいすごいことを。 胸がキュンと締め付けられて、ドキドキがどんどん速くなっていく。 「これでもう選ばなくていい」 店長は、私のストレートのロングヘアを一筋、手に取った。 「三島さん、こんなに綺麗な髪してたんだな」 店長はその人差し指に私の髪を絡める。 「仕事中はいつも着物に合わせてアップにしてるから、気付かなかった」 そう、私は、仕事の日はいつも夜会巻きにして、べっこうのかんざしを刺してる。 「今度、また髪を下ろした三島さんと会える?」 それって…… 休みの日にってこと? 私は、俯いた顔を少し持ち上げてから、コクリとうなずいた。 「良かった。来月はシフト考えなきゃな。三島さんと休みがかぶるように」 私は、もう、顔を上げられなくて、最寄駅に着くまで、ずっと顔を伏せたまま、店長の独り言を聞いていた。 ─── Fin. ─── レビュー・感想 ページコメント 楽しみにしてます。 お気軽に一言呟いてくださいね。
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