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新学期が始まって一週間。隣の席の女子については疑問と不安だけが募っていった。
わかったことは三つ。
まず、彼女の名前だ。
これは座席表を見て確認した。
松方美玲。
良い名前だ、と思った。文字の意味ではなく、響きが。
女子も男子も「松方さん」と呼んでいたので、俺もそう呼ぶことにした。逆にそれ以外の呼び名は聞いたことがなかった。
次に、彼女はとても美しいということだ。
見た目もだが、中身も美しい。
絶対に他人を否定しないし、学問に深く興味を示し、どんな人にも礼儀正しい。彼女は動作は小さいが、よく見ると目をきらりとさせたり、指先を揃えたりしているのがわかる。
それに美人だ。
長くて黒いサラサラした髪は後ろで一つに結び、肌は透き通るように白く、大きめの瞳に長い睫毛。
よく映画やドラマに登場する、『クラスに一人はいる美少女』のようだった。
そんな美少女を男が放っておくわけもなく、友達で集まって女子の話をするときには必ず松方さんの名前が上がった。
しかし、決まってたどり着く結論は『松方さんとは関わらない方が良い』ということだ。
その理由は、俺が松方さんについてわかったことの三つ目にある。
それは、彼女は冷たいということだ。
物理的に冷たいのではない。もっとも、松方さんに触れたことはないのだが。
彼女はクラスメイトや先生、いわば他人に対して非常に冷酷なのだ。
否定はせず、礼儀も正しい。けれど、絶対に目を合わせず、そそくさとその場を離れ、関わりを持つことを避けようとする。
誰かが困っていても、助けを求めていても、決して振り返らず、手を差し伸べることはない。
上辺だけの賛同。上辺だけの礼儀正しさ。
そんな無慈悲な彼女に本気で惚れる者など現れず、むしろ怖がるクラスメイトが増えていた。この話は他クラスにも広がり、ついに彼女の周りには人が寄り付かなくなった。
なぜ彼女はこんなにも他人に冷たいのだろうか。
これは彼女自身が望む姿なのだろうか。
考えれば考えるほど、彼女に優しく温かくなってほしい思いが募った。
平凡で、何の魅力もないただのクラスメイトだけど、この美少女を、本物の優しさを含んだ笑顔にさせてあげたかった。
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