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真面目が取り柄の平社員 ①
蛍光灯の白い光が、脂ぎったオデコに、てろりと反射する。
そのオデコの後ろの時計が、7時45分を示したのを果穂は眼鏡の奥から恨めしげに眺めた。
目の前にいるのは、煙草と酒で作られたかのような声とニオイを発する上司、営業部第2課・課長だ。
「小鳩くん、残業はほどほどに、と、いつも言っているだろう?」
「はい、すみません。ですが営業1課の児下さんから急ぎで、頼まれまして」
「はぁ……」
わざとらしいタメイキもまた、タバコ臭い。
「仕事の配分はできてるか? 時間内に終わらせるのは平社員の義務だろ? 残業したければ、早く出世して管理職になりなさい。部下が残業して叱られるのは、こっちなんだから。頼むよぉ?」
「はい。なるべく早く終らせて帰ります。すみません」
ああもう、本当に人の話を聞いてないオッサンだ…… と、果穂は上司に頭を下げながら、思った。
まずは、文句なら営業部1課の児下に言うべきだろう。終業時刻間際に 「頼むよー! お客様が急いでおられるんだ」 と軽いノリで仕事を持ち込んできた張本人だ。
急ぎだというなら、案件受けた段階で一旦戻って渡してくれればいいではないか。
次に、「私は今、手一杯だから」 とサラリと仕事を押し付けてきた先輩のお局様。『いやあんたの手持ち、期限先のばっかりじゃん!』 とツッコミ入れたくて仕方なかった。
時間配分がどうこうの説教なら、まずは彼女にお願いしたい。
そして、何より。
残業するなといいながら、その貴重な残業時間をネチネチとした説教で潰す、目の前の上司。
そんな暇があれば、コピー取りでも手伝え。
「じゃ、ボクは先に帰るから。キミも適当に終わらせて、早く帰りなよ」
「はい。お疲れ様です」
(ああ…… 殴りたい殴りたい殴りたい殴りたいっ!)
拳をグッと握り締めるに止め、ひたすら目線を下に向けて耐える…… 仕事だから、仕方ない。
気にしないようにしなければ…… だが。
気にしないようにするだけで、ストレスが無くなるわけじゃない。
-- 帰りに、大いに発散させよう。
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