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祖 母 ①
果穂の勤める夕焼け食品は、地元のお土産品などを扱う会社であるため、盆や正月も休まない。シフトに従って、少しずつ休みを取るのだ。
おかげで、果穂の夏休みはお盆よりかなり早い、7月半ばの1週間になった。
「まぁまぁ、素敵な彼氏ねぇ…… ご両親へのご挨拶はもう、済ませたの? 果穂ちゃんは良い子なんですよ。これからも、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ。よろしくお願いいたします」
フェリーのタラップから降りた果穂と呉に、開口一番でボケをかましたのは、小鳩波美子…… 果穂の祖母である。
ショートカットの真っ白な髪と、果穂とよく似たぱっちりと透き通った瞳。小柄ながら、細身のジーンズがよく似合っている。
「おばあちゃん、呉さんは彼氏じゃなくて、そっちのヒトの元・秘書さん。すごく良くしてくれてるの」
そっちのヒト…… 今まで祖母と、和やかに話していた悪霊は、にこやかにうなずいた。
『思ったより早く着いたな』
「呉さんの手配が完璧だったんだよね。さすがだわ」
祖母・波美子の住むここ夕焼け島までは、果穂の住む街からはフェリーで45分ほど…… だが、フェリー乗り場までの道が混んでいたりして船に乗り遅れると、果てしなく時間がかかってしまう。
その辺りを計算し、混み合っている道を避けて最短時間でスムーズに島まで連れて行ってくれた呉は、優秀といえよう。
銀治郎の方は、ウッカリ同行してフェリーに雷でも落ちたら大変なので、別行動になった。
霊道を通って先に島に着いたところで、偶然にも出会った波美子と立ち話をしつつ、果穂たちを待っていたのである。
-- ちなみに波美子は、島の中で "視える人" として有名なので、 "一般には見えない霊" と道端でお喋りをしていても、「ああまたか」 程度にしか思われていない。
島民たちは普通に挨拶をして、通りすぎていく…… おおらかなのだ。
「ふふふ…… 銀治郎さんも、すっごく良い方よねぇ…… 死んでるのが残念だわ。生きてたら、末長く果穂をお願いするのに」
『どうも、すみません。それどころか、ご迷惑を掛けっぱなしで』
「いいのよ。菜津みかん大福に免じて、許してあげるわ」
愛車のフリードを運転しながら、祖母は鈴を振るような軽やかな笑い声を立てた。
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