修 行 ④

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修 行 ④

「あの森は "奏想(そうそう)の森" 霊の思いを増幅させるのよ」 「それで、果穂さんの修行に」 「ええ」  波美子は微笑んで、夏みかん大福を1つ、つまんだ。  庫裡(くり)に戻った波美子と(くれ)は、果穂の修行を見守りつつ、ぼちぼちとお茶を飲み、静かに話し合っていた。  テーブルの上に置かれた水晶には、果穂が、霊を殴りつけている姿が映し出されている。  いよいよ危なければ助けるつもりなのだろう、波美子の目は、片時も水晶から離れることがない。 「果穂(あの子)が強くなれないのは、成仏させられる側の事情を全く知ろうとしないからだもの」 「知ったらより、成仏させにくくなる…… といったことは、ないんでしょうか」 「知った上で、同情して引きずられるのではなく、是が非でも救う、という強さが必要なんですよ」 「救う、という考えは、果穂さんは嫌いそうですね」 「そういうのが、あの子の、謙虚でもあり傲慢でもあるところよ。  確かに、普通の人には人を救うことは難しい…… けど、あの子の能力はそんなものじゃないの。与えられた能力を見誤って、その上に胡座(あぐら)かくのは傲慢なことよ」 「傲慢…… ですか」  呉はわずかに首をかしげた。果穂とその言葉は、あまりにも似合わないような気がする。  しかし、波美子は容赦なかった。 「生命あるものは皆、与えてくれたものに敬意を払うことを自然に知っている。だからこそ、生命の限り生きようとするんですよ。  …… けれど人は、幸か不幸か、生命以上の能力を与えられた。それをちっぽけな己のものだと考え、己は弱いから何も為せるわけがないと思い込み、為そうとしないのは…… とても、とても、傲慢なことなの」 「なるほど…… しかし、それはよくあることでもありますね」  そうねぇ、と波美子はうなずき、茶をゆっくりと飲んだ。  目の前の水晶には、果穂が霊の記憶に引きずられて倒れそうになっている様子が映し出されていた。  意識が飛んでガラ空きになった身体に、他の霊が入り込もうとしているのを、銀治郎が追い払って防いでいる。  -- キリなく現れる霊たちは、銀治郎の力ならば一気に消滅させた方が早いだろうに、彼はそうしない。 「優しい子ね、銀治郎さん」 「はい」 「…… 傲慢とは言ってもね、難しいことでもあるのよ。  果穂には一生、無理かもしれなかったし、無理なら無理で良いと思っていたけれど…… きっと、銀治郎さんと一緒なら、大丈夫ね」  -- 水晶の中では、目を覚ました果穂が次の霊に、気合いと共に拳を叩き込んでいた。
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