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邂 逅 ①
『立てる? ケガはない?』
片ひざをついて手を差し伸べてくれているのは、スーツ姿の青年。
通った鼻筋、薄い唇、人懐こそうなクリッとした目はイキイキとして、意思の強さを感じさせる。
つまりは、典型的なイケメン、といえそうな顔である。
『大丈夫? どこか、痛む?』
優しい口調で覗き込んでくるその顔は、目鼻立ちがハッキリしているのに主張しすぎず、バランス良く配置されており、多少の好みの違いはあれど誰から見ても印象良い…… であろう。たぶん。
しかし。
霊能者としての果穂は、腰が抜けるほどに怯えていた。
-- やっちまった。
そんな、気分なのである…… すなわち。
(こんな大物の接近に気付かなかったなんて…… 詰んだ……)
果穂の第六感と経験は、目の前の彼が、普段なら鉢合わせないよう逃げるレベルの危険な霊である、と告げていたのだ。
さて、どうするか。
選択肢は3つ。
1) 何も視えていないことにして、即、逃げる。
2) とりあえず、殴ってみる。
3) 言い訳しつつ、隙を見て逃げる。
果穂が選んだのは、3番目だった。
-- 既にバッチリと目が合っている状況で、1番は難しい。2番は、効果がない可能性が大いにある。
彼のように、上質なスーツの折り目までハッキリ見えてるほど実体のある霊では、殴っても消すどころか怒らせるのが席の山、だ。
「あ、あのですね…… 私は彼らを一方的に殴り付けては…… いましたけど…… それは、成仏させるためであって…… 彼らのためでも、あるんです……」
言いながら、ジリジリと後退りをする。大通りまで下がったら、定番の九字護法でも唱えながら一目散に走れば…… 逃げきれる、だろうか。
『彼らのため、だって……?』
滑らかなバリトンの声が、凍えるような響きを帯びた。
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